キリリク断念ストーリー・ランキング

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2008年12月に行われた「キリリク断念ストーリー・ランキング vol.4」。
今度こそリクエストを!との執念に燃える皆様から、多数の投票をいただきました。みなさん、ありがとうございました。
結果のほどは こちら をご覧下さい。

 


 

せいくらべ

 

 

 世の中って不公平だなぁ、と思う時。
 例えば、女性専用車両。例えば、映画館のレディースデー。世の女どもはあんなに強いのに、どうして彼女ら専用があって、僕ら男専用のものがないんだろう?
 そして―――例えば、バレンタインデー。
 僕の周りでは、どう考えても、女の子の方が度胸があって行動的だというのに、何故女の子のための「告白デー」があって、僕ら男にはそういう日が設けられていないんだろう?
 ホワイトデーがあるじゃない、とちい姉ちゃんに言われたけど、あれはバレンタインデーのお返しの日であって、男が女の子に告白する日ではない。そう反論したら、ちい姉ちゃんはとんでもないことを言った。

 「あのね、女の子の方から男の子に告白するなんて、とーっても恥ずかしくて、勇気の要ることなの。だからこそ、女の子が告白できる日が作られたんじゃないの。男は年がら年中、いつだって告白できるのよ。なんで1日に絞る必要があるのよ」

 …おかしい。絶対それはおかしい。雄介は年がら年中女の子からコクられてるぞ。雄介の方は、小学生の頃、好きな女の子に5年間も告白できなかったっていうのに。
 よくわからないけど、きっと、バレンタインデーが出来た頃と現代とでは、世の中の事情が違ってきてるんだと思う。
 好きな人に告白できなくて、ラブレター片手に1年中モジモジしてる女の子が大半だった時代に、バレンタインデーが出来たんだろう。でも、そういう日が出来たおかげで、女の子たちが大手を振って告白できるような空気が世の中に広がって―――で、今のような状況になったんだと思う。多分そうだ。
 じゃあ、バレンタインデーが出来た頃は、男どもはもっと積極的で、イベントなんかに頼らなくてもじゃんじゃん告白とかしまくってたんだろうか? だとしたら、いつから堂々と告白できなくなったんだろう? …なんか、腑に落ちないなぁ。

 流行は、時代が作るんだ、って誰かが言ってた。
 だったら、イベントごとだって、時代に合わせて変わるべきだと、僕は思う。

 誰か、2月14日を、好きな子に声さえかけられない僕みたいな小心者が、告白代わりにチョコを渡せる日に変えて下さい。


***


 「バレンタインデーって、海外じゃ、性別関係ないらしいじゃん」
 雄介の一言に、僕は心底驚いて、目を丸くしてしまった。
 「えっ、そうなの?」
 「この前、テレビでやってたぜ。日本のあの、女が好きな奴にチョコ渡す、ってのは、ゴディバがチョコレートの売り上げ伸ばすために考えたことで、外国じゃ恋人同士でプレゼント交換する日なんだってさ」
 「…なんだ、カップル限定イベントか」
 「どうせなら、ゴディバじゃなく、カルビーあたりが考えついてくれりゃあ良かったよなー。チョコって飽きるんだよ。ポテチとかえびせんなら、どんだけもらっても1週間以内に消費できるのに」
 毎年、山のようにチョコレートをもらっている雄介ならではの意見だ。家族からの義理チョコ含めてせいぜい1、2個がいいところの僕には、ただの自慢にしか聞こえない。ムカついたので、隣を歩く雄介のわき腹を軽く殴っておいた。
 「いてて…。あ、そうそう、バレンタインて言えばさー、ついに奈々子の奴が、手作りチョコにチャレンジしやがったよ」
 「え、奈々子ちゃんが?」
 奈々子ちゃんは雄介の3つ下の妹で、今、小5だ。小5なのに、僕とあまり背の高さが変わらない。雄介んとこは両親が揃って背が高いからなぁ。雄介だって、中2でもう170だし。いいよなぁ。
 「今年は何人?」
 「学校の友達だけで5人だってさ」
 「てことは、雄介とお父さんの分合わせて、7人分手作りか…スゲー」
 「あいつもいい加減、本命にだけチョコ渡すようにすりゃあいいのに」
 「いるの? 本命」
 「いないから、友達に平等に配ってるんだろ」
 「…なんか変だよね、それも」
 海外は別として、日本のバレンタインデーは“好きな人に告白する”というイベントだった筈なのに、いつから“友達にも配る”とか“お世話になってる人にもあげる”になったんだろう? うちの中学は原則「チョコレート禁止」だから、義理チョコ配る女子もいないからいいけど、おお姉ちゃんの会社も義理チョコ必須で洒落にならないって言ってたし。
 なんだか、今のバレンタインデーは、よくわらかない。結局、どういうイベントなんだろう? …まあ、どんな風だろうと、僕ら男はただ待ってるしかないイベントであることに変わりはなさそうけど。
 「でも、なんで今年に限って、そんなにバレンタインデーのこと気にするんだ? 去年まではどーでもよさそうだったのに」
 「えっ」
 突然、雄介にそう突っ込まれて、心臓がドキンと鳴った。
 「べ、別に気にしてる訳じゃないけど」
 「そーかぁ? 誰か気になる子でも出来たんだろ」
 「違うってっ。ち、ちい姉ちゃんが彼氏に振られたばっかで、このタイミングでバレンタインデーがあるなんて拷問だ、ってボヤいてたから…」
 …ごめん、ちい姉ちゃん。ダシに使っちゃって。
 「え、とうとう振られたんか。あちゃあー」
 「あの、ちい姉ちゃんには何も言うなよ? 僕がバラしたなんて知ったら、ちい姉ちゃんのことだから、きっと―――…」
 慌てて雄介を口止めしようとして―――でも、僕の目は、雄介じゃなく、僕らの後ろを歩いてる女の子の方に吸い寄せられてしまった。
 「……」
 「あ、おはよー」
 僕と目が合って元気にそう答えたのは、男勝りな門倉さん。
 その隣で、物凄く控えめに「おはよう」と小声で答えたのが、相沢さん。
 2人は、凄く仲が良くて、よく一緒に登校している。でも…全然、気づかなかった。いつからすぐ後ろを歩いてたんだろう? もし、今話してたことを聞かれてたりしたら…ちょ、ちょっと、恥ずかしい、かも。
 「お…おはよ。後ろにいるなんて、知らなかった」
 「今追いついたばっかだもん。後ろから見てても、目立つねー、デコボココンビ。すぐわかっちゃった」
 門倉さんが、そう言って笑う。勿論、悪意があって言ってる訳じゃない。何故なら、門倉さんと相沢さんも、僕と雄介同様「デコボココンビ」と呼ばれていて、門倉さんは僕と同じ「小さい方の人」だからだ。
 「運動部は、朝練頑張ってるねー。小野君、背ぇ高いのに、部活とか入らないの?」
 歩き出しながら、門倉さんが雄介を見上げて言うと、雄介はつまらなそうな顔で、
 「んー、だって、めんどいし」
 と答えた。体格いいからよく勘違いされるけど、雄介はあんまりスポーツが好きじゃない。体育の授業も「めんどい」とよく言っている。やればそこそこできる方なので、バレー部とか勧誘しに来たこともあったらしいけど、やっぱり「めんどい」と断ったって聞いた。
 「えぇ、勿体ないなぁ。あたしなんて、もうちょっと成績と体格良かったら、いろんな部活掛け持ちしたい位なのに」
 不満そうにそう言う門倉さんは、雄介と同じ帰宅部だ。塾通いしてるから、部活ができないらしい。ちなみに、僕は卓球部で、相沢さんは吹奏楽部。うちの中学では、どちらも、朝練はないけど部内の上下関係が結構厳しいと言われている部らしい。実際、僕はそうでもないけど(体が小さいから忙しく動いてるように見えるのかも)、私語が多めの2年生なんかは、すぐ先輩に目をつけられて、ビシビシしごかれてたりする。まあ、それを「厳しい」と言っていいのかどうか、よくわかんないけど。
 …相沢さんは、先輩のしごきとか、受けたりすること、あるのかな。
 吹奏楽部の実態を、僕はよく知らない。吹奏楽部の友達がいないから。でも―――相沢さんは真面目だし、委員会とかでも熱心に仕事してるから、先輩たちからも可愛がられてるような気がする。でもなぁ…うちの部活でも、大会選手に抜擢された1年生なんかは、先輩たちから妬まれて嫌がらせされたりするからなぁ…優秀な部員だからこそ虐められる、なんてこともあったりして。
 「あ、やばい、校門にしのっち立ってる! 急ご急ご」
 僕が、ちょっと相沢さんに話を振ってみようかな、と思った矢先、門倉さんがそう言って、相沢さんの手を引っ張って走り出してしまった。
 ああ、せっかくのチャンスが―――校門前に仁王立ちしてる先生の姿も忘れて、僕はガックリと来てしまった。
 「おい、何情けない顔してるんだよ。俺らも急がないと」
 「……うん」
 雄介には、きっとわかんないよな。なかなか話す機会がなかった子と、初めて話すチャンスが巡ってきてたっていうのに、ほとんど話せないで終わっちゃった僕の、この空しい気持ちは。

 ちい姉ちゃんをダシにしちゃったけど(勿論ちい姉ちゃんがぼやいてたのは嘘じゃないけど)、僕が今年に限って2月14日をやたら意識するのは、それだけが原因じゃない。
 同じクラスなのに、なかなか話す機会のないまま1年経とうとしている、女の子―――相沢さんが、一番の原因だ。


***


 相沢さんは、背が高い。
 僕は、背が低い。
 クラスの席順も、黒板の見易さを考えてチェンジされてしまうから、僕は前から2番目、相沢さんは後ろから2番目。退屈な授業中、彼女の後姿を眺めて眠気を覚ます、なんて幸せな経験もできない位置関係だ。
 女子で一番背が高くて、クラスの半分近い男子が背丈で彼女に負けているもんだから、相沢さんの背の高さを陰でからかってる馬鹿な連中も何人かいる。デカすぎるとか、男女とか。でも、相沢さんは、そういう言葉とは似ても似つかない。大人しくて、控え目で、笑う時も手を口元に置いて鈴みたいな声でコロコロと笑う、凄く女の子らしい印象の女の子だ。
 背が高いって言っても、雄介よりはまだ低い。横には広がらず、ただ縦にひょろっと伸びた感じで、私服姿なんて見たことないけど、きっとモデルさんとかできそうな位にスタイルがいいんじゃないかと思う。なのに、背の高さだけ気にしてるのか、それとも一緒にいる門倉さんに合わせようとしてるのか、彼女はいつも、ちょっと猫背気味で歩いている。凄くもったいない。
 でも、猫背になった相沢さんより、僕は背が低い。
 秋にやった身体測定での、彼女の身長、167センチ8ミリ(女子の情報に詳しい奴提供)。一方僕は、153センチ3ミリ(これでもこの1年で3センチ伸びた)。その差、14センチ5ミリ―――ミリまでこだわってるあたりがセコい、と、僕の気持ちを唯一知ってるおお姉ちゃんから指摘された。でも、これだけ差があると、ミリ単位でもいいから、少しでも差が縮まってくれないか、と願わずにはいられない。

 「何言ってんの、男は背丈じゃないでしょうが。ジャニーズ軍団を見なさいよ。あれだけ女の子からキャーキャー言われてるけど、目立って背の高い子なんてあんまりいないじゃない」

 おお姉ちゃんは、そう言って僕を励ましてくれたけど、「ジャニーズがモテるのは顔が可愛いからだろ」と僕が指摘したら、「それはそうだけど」とあっさり認めた。その上、「まあ、顔で負けても、ハートがあるじゃないの」と、微妙なフォローをして去っていってしまった。…それって、僕は顔で勝負できないって意味なんじゃないかなぁ。まあ、絶望的に不細工って訳じゃないけど、別に可愛くも整ってもいないしなぁ。
 正直なところ、僕は、あまり、自信がない。
 成績も普通だし、運動神経も普通で、音楽や美術も普通。通知表も3を中心にたまに4が混じる程度だ。部活でも大会の控え選手レベルという微妙な位置で、委員会でも特に目立った発言もなく、多数決と業務連絡のためにいるメンバーの1人といった感じだ。多分、今僕が何か事件を起こして、マスコミが学校関係者に取材をしたら、みんな「普通の子」と答えるだろう。卒業アルバムの「将来○○しそうな人」ランキングなんかにも、良くも悪くも載らないタイプだと思う。
 それでもって、顔まで普通で、背が低い。周りの連中が経験している、1年でドーンと一気に背が伸びる経験を、僕はまだしていない。僕より低かった奴らが見る見る僕を追い越していく中、今だにちんたらと2、3センチずつ伸びている。お父さんもドーンと伸びたのが高校の時だったらしいから、そういう遺伝なのかもしれない。そう信じて、あえて、致命的な問題だとは考えないでおこう。今は。
 …はっきり言って、救い難いほど酷い部分がない反面、特筆するような良い部分も、ない。
 成績が比較的良くて、性格も温厚で優しい相沢さんと比較して、僕の方が勝ってる点が、ない。
 だから、致命的な問題じゃないぞ、と言いながら、つい、見た目ではっきり差が出る背丈の問題に、こだわってしまう。雄介位の背があったら…いや、せめて、相沢さんと同じ位の背があったら、思い切って告白することだって考えたかもしれないのに、って。


 「前から思ってたけどさー、これって、背が伸びるんじゃなく、腕が伸びるんじゃないかなぁ」
 ほぼ日課になっている、昼休みの鉄棒ぶら下がり。伸びろー、伸びろー、と心の中で唱えながら僕がぼやくと、鉄棒の脇にしゃがみこんでる雄介が、上の空気味な声で答えた。
 「背筋が伸びて、その分背が伸びるってことなんじゃない?」
 「ほんとかなぁ」
 「しかしまあ、よく続くね、半年も。背なんて別に高くても低くてもよくねぇ?」
 「雄介が言うと嫌味にしかならないってっ。…てか、今度は何してんの?」
 そろそろ腕が痛くなってきた。弾みをつけて鉄棒から降りた僕は、さっきから雄介が夢中になっているDSの画面を覗き込んだ。
 「あれ? それって、この前もやってたやつじゃない? 確か2周目とか言って」
 「んー、これは、3周目」
 「…マジで?」
 「隠し要素を集めきってないんだよ」
 そう言ってゲーム画面を睨む雄介の目は、三角形に尖って見える。…スポーツも勉強も女の子も「めんどい」なのに、同じゲーム3周やる根性はあるんだよな、こいつの場合。
 「僕、第1章で挫折したんだけど…それって、そんな面白い?」
 「まあまあ、かなー。ストーリーはいいけど、キャラがイマイチだよなぁ。萌えキャラいないし」
 「…ルルカちゃんみたいな?」
 「アホ、ルルカじゃねぇっ、リルカだっ」
 ルルカちゃん、じゃない、リルカちゃんというのは、今雄介が持ってるDSの蓋に貼ってあるシールの女の子のことだ(ゲーム好きな連中の間では、雄介のDSは“痛いDS”と呼ばれてるらしい)。何とかいうゲームに出てくるキャラクターで、一部のゲーマーには凄い人気らしいけど、僕にはその良さがいまいちわからない。だって、どう見ても子供じゃん…ファンタジーな衣装着てるからよくわかんないけど、多分10歳以下だよ、この子の設定。
 「雄介がバレンタインデーに無関心なのも当然だな」
 「おー。リルカちゃんと勝負できるレベルの三次元が実在するなら、俺も考えるぜ」
 「…つくづく、残念な奴だよなぁ…」
 この雄介の趣味、同じクラスになった奴なら大抵知ってるから、雄介はクラスの女子にはモテない。雄介ファンは、全員下級生か情報が行き渡っていない別のクラスの女子だ。あの子たちも、雄介がつるぺた幼女キャラが好きだなんて知ったら、絶対ドン引きだろうなぁ。誰か、雄介のこの趣味を理解できる奇特な女の子が現れてくれりゃいいけど。


 人の好みなんて、それぞれだ。
 今時っぽいギャル風な外見が好みだ、なんて言う奴もいれば、同世代より年上が好きだ、なんて言う奴もいる。大人しい子は苦手で、って意見もあれば、賑やかな女なんて最悪だ、って意見もある。リルカちゃんの“萌え要素”が理解できない僕みたいな奴もいれば、三次元は二次元に敵わない、と力説する雄介みたいな奴もいる。
 相沢さんは、どんな人がタイプなんだろう? 意外に背が低い奴……とかいう都合のいいオチは、ないんだろうなぁ、きっと。

 もうすぐ、バレンタインデー。チョコ禁止令の敷かれてるうちの学校だけど、本命チョコだけは、先生たちも黙認状態だ。
 相沢さんも、誰かに渡すためのチョコを、買ったり作ったりしてるんだろうか?
 もしそうなら、どうか、相手の奴の好みが相沢さんとは逆のタイプでありますように―――なんて考えてしまう僕は、最低最悪のヘタレかもしれない。


***


 明後日はバレンタインデー、という日、夕食後、テレビを見ていたら、姉2人が揃って寄ってきた。
 「ちょっと、(すぐる)ちゃん〜〜〜〜、聞いてよ〜〜〜〜」
 「あ、お姉ちゃん、ずるい! あたしが先だってばっ。ねねね、卓、ちょっと聞きたいんだけどさー」
 …来た。久々に。
 至福のテレビタイム、終了。今夜は寝るのが遅くなるな、と覚悟しつつ、僕は2人に向き直った。
 「…とりあえず、じゃんけんしなよ。勝った方の話から聞くから」

 うちの家は、女が強い。むちゃくちゃ強い。
 でもって、男が弱い。むちゃくちゃ弱い。その中でも、僕は特に弱い。なにせ、たった1人の男兄弟で、かつ、一番下なんだから。
 通称おお姉ちゃんは、既に大学も卒業して社会人1年目。責任感強くて、勉強も仕事もバリバリこなすタイプの人。通称ちい姉ちゃんは、今短大の1年生。とにかく気が強い。でもってがさつ。よく彼氏がいたな、ほんとに。
 2人とも、いい姉なんだと思う。可愛がってくれるし。一番下だからってこき使うこともないし。ただ…僕のヘタレな部分は、この2人のせいのような気もする。

 「あったまくるわよ、あのスケベ親父! 女子社員をホステスか何かと間違えてんじゃないの!? もーっ!」
 「うわー、やだやだ、いまだにいるんだ、そういう奴。うちのコンパでもさぁ…」

 姉ちゃんたちは、時々こうやって、2人揃って僕の前に現れて、主に「男に関する愚痴・怒り」をぶちまける。「聞いてよ〜」と来た割に、特に僕に向かって話しているという感じじゃなく、女同士でわいわい盛り上がってる感じで、僕はただそれをぼーっと聞いているだけだ。
 …まあね。男子だって、女子のこと、裏ではあれこれ勝手なこと言ってるんだけどさ。でも、裏で行われてる筈の話を、思い切り目の前でされちゃうと―――女って強いなぁ、とか、女って怖いなぁ、とか、しみじみ思ってしまう訳で。
 しかも、一頻り盛り上がった最後には、必ず話が僕に向く。

 「…で? 卓。好きな子が出来たんだって?」
 「!!」
 その話をした覚えのないちい姉ちゃんから言われて、僕は慌てておお姉ちゃんの方を見た。
 「ち…ちい姉ちゃんには話すな、って…」
 「ごめんねー、つい、口が滑っちゃって」
 「なんだよ卓っ、なんでお姉ちゃんには話して、あたしには話さないんだよっ」
 「お、おお姉ちゃんにも話したくなかったんだよっ。どうせ、話したいきさつも聞いてんだろっ」
 土曜日に部活のために学校行った時、僕が忘れた弁当を、仕事が休みだったおお姉ちゃんが届けに来てくれて―――たまたまそこに、吹奏楽部の練習しに学校に来た相沢さんが通りかかって。よっぽどボケーッと見送ってたんだろうな。一発でバレた。「今の子って、卓君が好きな子?」って言われて、心臓が口から飛び出しそうになったっけ。
 「で? で? その後どうなったのよ」
 「もうすぐバレンタインだけど、チョコとか貰えそう?」
 「……」
 僕の学校生活や友人関係を、2人でタッグ組んで根掘り葉掘り聞いてくるのも、この2人の困ったところだ。
 最初の、酒癖の悪い男に対する愚痴なんて、もしかしたらただ僕を足止めするだけの口実に過ぎなかったのかもしれない。その日は、夜の結構遅い時間まで、相沢さんがどんな子か、とか、どうして好きになったのか、とか、あれこれ尋問に遭ってしまった。

***

 「なんか、すげぇ顔してんな、卓。大丈夫か」
 「…うー…眠い」
 日頃12時には寝るのに、昨日は寝たのが2時だったからなぁ…。姉ちゃんたちから解放されたのはもっと早い時間だったけど、あれこれ相沢さんのこと考えたりしてたら、眠れなくなっちゃったし。
 「雄介って、何時ごろ寝てんの、いつも」
 「俺? 早い時は1時前だけど、大抵は2時か3時かな」
 「げ…、そんな睡眠時間で、なんで普通に生活できんだよ」
 「熟睡してるからじゃねぇ? 俺、夢とか見たことないし」
 そう言う雄介の顔は、眠そうな僕の顔とは対照的に、すっきり目が覚めてる顔だ。熟睡かぁ…。昨日は夢もハンパない量見たもんなぁ。羨ましい。
 結局、全然頭がすっきりしないうちに、担任が来てしまった。慌てて後ろの席に戻る雄介を見送って、僕は、眠たい頭のまま「おはよーございます」の掛け声に合わせて頭を下げた。

 1時間目は、うちのクラスの担任の担当教科・国語だった。
 実は、僕は国語の授業が、全授業中一番苦手だ。いや、国語は割と得意な方で、成績も唯一5を取れたりするんだけど、授業が…眠い。特に教科書を音読してる時間とか、最悪に眠い。日頃から睡魔との戦いになるのが、国語の授業だ。
 加えて今日は、睡眠不足。歩いてる最中もずっと頭がグラグラしてたんだ。そんな状態で、お経みたいな音読を聞かされるなんて、苦行としか言いようがない。
 「よし、じゃあ、今日は12日だから、出席番号12番、読んで」
 「はい」
 担任に言われて立ったのは、僕のすぐ後ろの席の奴だった。ガタガタ、という立ち上がる音に続いて、教科書の読み上げが始まった。

 「―――光子は、納戸で見つけたその人形を、誰にも見つからぬよう、自室の押入れの奥へと隠した。やがて、みねの泣く声が、階下から聞こえてきた…」

 ……眠い。
 眠い。読み上げられる文章が、頭の上を掠めて、どんどん通り過ぎてしまう。
 頭が傾いていくのを感じて、まずい、と少しだけ思ったけれど、抵抗するだけの力は僕にはなかった。最初のたった2行を聞いただけで、僕の意識は途切れた。


 夢を見た。
 夢の中で、僕は、薄暗い小さな部屋の中を歩き回って、何かを探していた。
 見たこともない部屋―――こういうの、何て呼ぶんだっけ? 埃っぽくて、なんだか箱とか包みとかがいっぱいあって。ああ…確か、こういうのを納戸って呼ぶんだよな。
 ええと…僕は、何を、探してたんだっけ?
 いまいち、よくわからないまま、積み上げられてる箱とか包みとかを適当に漁る。そしたら―――何かが、足にぶつかった。
 ―――ん? 今の、何だ?
 慌てて足元を見たら、古い人形が転がっていた。
 暗くて、どんな人形か、よく見えない。人形を拾い上げた僕は、ぽんぽん、と埃をはらって、格子から射し込む太陽の光にかざすようにしてみた。
 人形は、優しそうな、愛らしい顔をしている。柔らかそうな肩までの髪、伏目がちな目元……あれ? この顔って―――…、

 「相沢さん…!!」

 夢の中で叫んだ直後、僕の頭を、ガン、という衝撃が襲った。


 「いてっ!」
 頭を殴られた勢いで、頬杖をついていた腕が外れて、僕の顎が机を直撃した。舌を噛まずに済んだのは奇跡だ。
 頭じゃなく顎をさすりながら頭上を見上げると、担任の不敵な笑い顔がそこにあった。
 「こらぁ、矢神、音読している奴の目の前で居眠りとは、いい度胸だな」
 「……」
 僕って、居眠りしてたのか―――まだ、頭が上手く回っていない。ぼーっとする僕に、担任は更に、とんでもないことを言った。
 「しかも、なんだ、相沢の夢でも見てたのか。授業中に夢を見るなんて、随分余裕あるじゃあないか」
 「……!」
 なんでっ!!?
 慌てて周囲を見回すと、隣の奴も、前の奴も、向こうの奴も、そのまた向こうの奴も、みんな僕の方を盗み見てクスクス笑っていた。
 こ、これって、まさか―――夢の中で叫んだ、最後のあの一言って……。
 「ちゃんと目ぇ覚ませよ。はい、後ろ、音読続けて」
 ぽん、と先生の手が僕の頭を叩く。そして、何事もなかったかのように、後ろの席の奴の音読が再開された。でも、まだ部屋中のあちこちで、クスクス笑いが起きているのがわかる。

 ―――最悪だ。
 穴があったら入りたい、とか、死んでしまいたい、とか、恥ずかしい位で随分オーバーな、と思ってたけど、ごめんなさい、今ならオーバーじゃないってわかります。
 本気で、穴があったら入りたい。今すぐ死んでしまいたい。

 あまりにも恥ずかしすぎて、僕は、相沢さんの席を振り返ることがどうしてもできなかった。

***

 1時間目が終わった途端、案の定、たまに一緒に遊ぶメンバー数人が、どっと僕の席に押し寄せた。
 「おいおい矢神ぃ、恥ずかしすぎだろぉ」
 「どんな夢見てたんだよー。気になるじゃん、教えろよ」
 わいわいと騒ぐ連中を、努めて無視しようとするけど、こいつらも結構しつこい。雄介もいつもの癖で僕の席に来てるけど、こういう話題に全然興味がない奴なので、相変わらず持ち込み禁止の“痛いDS”でゲームをしている。そんな、いつもと変わらない雄介に、ちょっとだけ冷静さを取り戻せた。
 「うるせーなぁ、お前ら。聞いて面白くなるような夢なんて見てねーよっ」
 僕が不機嫌にそう返すと、えー、とあちこちからブーイングが起きた。
 「ほんとかよ。てかさー、マジで相沢なん?」
 「よりによって、なんで相沢だよ。ただでさえ矢神、低い方なのに」
 「だよなぁ。女子の中でも高い方だもんな、相沢は」
 どいつもこいつも、勝手なことを言いたい放題言ってる。ムカムカしながらも、僕はまだ、相沢さんにこの会話が聞こえてしまってないかどうか確かめるだけの勇気は持てなかった。
 でも、次の一言で、辛うじて保ってたものが、キレた。

 「自分よりデカい彼女なんて、みっともないじゃん。やっぱ女は小さい方がさぁ」

 ―――みっともない?

 何が? 誰が? 僕が? 相沢さんが!?

 カッと頭の中が熱くなった。
 気づいたら、物凄い音を立てて立ち上がって、バカな一言を言いやがった奴の制服の袖を掴んでいた。
 「なんだよ、みっともないって」
 「えっ」
 「何で、自分より背の高い子が彼女だと、みっともないんだよ」
 僕がいきなりキレたんで、周りの連中は完全に固まってしまった。失言吐いた当事者は、困惑した顔で、引きつった笑みを浮かべていた。
 「い、いや、俺は別に矢神がみっともないとか言ってないよ? た、ただ、どうせ彼女にするんなら、自分の方が背が高くなる相手の方がいいじゃん。何も、わざわざ高い子選ばなくてもさ、」
 「なんでだよ。じゃあお前は、いい子だなぁ、って思った子が自分より背が高かったら、みっともない、って思って好きじゃなくなるのかよ。え?」
 「えっ。え、えー…、ど、どうかなぁ…」
 どうかなぁ、って。
 駄目だ。キレたんじゃなく、完全に腹が立ってきた。掴んでた袖口を、投げ捨てるみたいにして離して、僕は自分より高い目線にあるそいつの目を睨みつけた。
 「中身は同じ人間なのに、自分の背丈と比較して高いか低いかで、相手の価値が変わるなんて、おかしいだろ!? 周りの奴らからどう見えようが、友達は友達だし、好きな子は好きな子だろ! 周りからどう見えるかとか、一緒に並んだらみっともないとか、比較されたら自分がかっこ悪く見えるからとか、なんでもかんでも比較して人間判断してんじゃねーよっ!」
 「……」
 唖然、って、多分、こういう状態を言うんだと思う。
 僕は日頃、あんまり声を荒げたりする方じゃないから、連中も相当驚いたんだろう。周りにいる奴ら全員、リアクションを何もとれないまま、目を丸くして黙り込んでしまった。
 怒鳴ったはいいけど、僕もどうまとめりゃいいかわからなくて、ただひたすら連中を睨んでたら、この騒ぎの中でもDSから目を離さなかった雄介が、ノンビリ口を挟んでくれた。
 「俺と卓が並ぶと、俺のが背ぇ高いけどさぁ、俺、勝ったとも思わないし、卓もイヤだとか言わないしさ」
 「……」
 「俺、オタク趣味で相当痛いって裏では言われてるし、卓はそーゆー趣味全然ないけど、それでも卓は、俺の友達でいてくれるよ」
 雄介のこのセリフは、連中には相当効いたんだろう。だって、雄介が下級生に人気があるのを面白くないと思ってて、裏でオタクオタクと噂して笑ってるのは、こいつらなんだから。
 多分、こいつらが、いつも一緒にいる僕と雄介のうち、僕だけを遊びに誘ったりちょっかいかけたりするのは、雄介と一緒にいると見た目で負けるからなんだろう。つまり、僕なら大丈夫と安心してるんだ。それを、避けられてる雄介本人からズバリ指摘されて、反論できるほど面の皮の厚い奴は、さすがにこの中にはいないらしい。
 ちょうどそのタイミングで、2時間目の授業が始まるチャイムが鳴った。ぐうの音も出ないまま、連中はすごすごと、自分たちの席に戻って行った。
 ほんとに、雄介には感謝だ。よいしょ、と立ち上がった雄介を見上げると、雄介はバツの悪そうな顔で、頭を掻いた。
 「…まあ、さ。助太刀したんだから、放課後に、1戦付き合えよな。今日、部活休みだっつってただろ」
 「う…、じゃあ、帰り、寄る?」
 うん、と頷くと、雄介は自分の席に帰った。うーん、1戦付き合うのはいいけど、僕がDSでやるのって脳トレとかばっかりで、格ゲーとかアクションとかの類は苦手なんだよなぁ…。
 でも、ここ最近、雄介が例の3周やってるRPGにはまってたもんだから、僕らがDS対戦やるのも久しぶりだ。多分ボコボコにされて終わると思うけど、それでも、僕は放課後がちょっと楽しみになった。

 ―――と、ここでようやく、あることを思い出して、ハッとした。

 「……」
 しまった……あ……相沢さん……。

 慌てて振り返ると、相沢さんの肩を叩いた門倉さんが、ニコニコ顔で席に戻るところだった。当の相沢さんは、席に着いちゃってるからよく見えないけど―――顔真っ赤にして、俯いてるように、見えた。
 …絶対、聞こえてたな。今のやりとり。
 しかも、今の話の流れって、どう考えても、僕が相沢さんのこと好きなのがバレバレなんじゃないか?

 「最悪…」
 思わず呟いた一言は、2時間目の先生がガラッと扉を開けた音に掻き消された。


 あいつらには、偉そうなこと言ったけど。
 相沢さんが僕より背が高いからカッコつかない、なんて、やっぱり思わないけど。
 でも…僕自身が一番、相沢さんとの背丈の差を気にしていたのも、本当のことだ。
 相沢さんと比べて背が低い自分を卑下して、こんな自分じゃ相手にされない、なんて思って、1センチでも背を伸ばしたくて必死になってた。自分が笑われるのは構わないけど、相沢さんが周りから「あんなのが彼氏なの?」と言われる気がして、嫌だった。
 …そうなんだよな。周りの目なんて、関係ないんだ。本当は。大事なのは、相沢さんがどう思うか、だけなんだから。
 もっと背の高い男がいくらでもいるのに、とか、背丈をカバーするほどの魅力もないじゃん、とか、たとえ周りが言ったとしても、相沢さんが「それでもいい」と思ってくれれば、背丈なんてどうでもいいんだ、ってことに、今更気づいた。
 なのに僕は、コンプレックスから勇気が出せなくて、バレンタインデーなんてイベントごとにかこつけないと、告白もできない位、ヘタレで。

 …望み薄でもいいから、もっと早く、告白しとけば良かった。

 ていうか、こんな形で知れ渡っちゃうのに比べたら、さっさと振られた方が数百倍マシだろって!!!!!


 結局その日は、1日気分が落ち込んだままだった。
 相沢さんに何か言うべきだったのかもしれないけど、そんな気にもなれなくて、家に帰ってからのDS対戦では予想通り雄介にボコボコにされて、そもそも居眠りをする原因になった姉ちゃん2人は揃って帰りが遅くて、この持って行き場のない怒りというか恨みというか、そういう気持ちをぶつけることもできないまま、僕は不貞寝するしかなかった。

 そして、一晩寝て目が覚めたら、2月14日―――バレンタインデーだ。


***

 「矢神君ー!」
 翌朝、雄介と一緒に登校してたら、後ろから誰かに声をかけられた。
 ギョッとして振り返ったら、声の主は、門倉さんだった。手を振りながらバタバタ走ってくる彼女の隣には、小走りに駆けて来る相沢さんの姿もあった。
 さすがに、昨日の今日だから、心臓がドキドキうるさい。だって、昨日の寝言で一番迷惑被ったのって、相沢さんだろうしなぁ…。
 追いついた2人に、僕と雄介は短く「おはよう」と挨拶をした。門倉さんは相変わらず元気に「おはよー」と挨拶したけど、相沢さんは、なんだかゴニョゴニョ口の中で言っただけで、いまいち挨拶になっていなかった。
 「あのさ、矢神君。美代子が、用があるって」
 「えっ」
 美代子、っていうのは、相沢さんの名前だ。門倉さんの言葉に驚いて相沢さんの方を見ると、相沢さんは困ったような顔で門倉さんの腕を引っ張っていた。
 「ま、麻紀ちゃん、私…」
 「なーに、今更怖気づいてんの。あ、じゃあ後はよろしく。はい、小野君、先行こう、先」
 「へ?」
 いきなり名前を呼ばれた雄介が、間の抜けた声を上げた。そんな雄介に構うことなく、門倉さんは、雄介の腕を引っ張って、スタスタと学校に向かって歩いて行ってしまった。

 …ええと…どうすりゃいいんだろう?
 相沢さんと2人だけ残されてしまった僕は、どうしていいのかわからなくて、ただ焦ったように、遠くなる雄介と門倉さんの後姿と目の前にいる相沢さんの顔とを何度も見比べてしまった。
 相沢さんの方は、いつもより赤い顔で、やたら目を泳がせていた。けれど、そのうち何かの決心がついたようで、泳がせていた目をきちんと僕に向けた。
 「あ…っ、あ、あのっ」
 「?」
 「あのっ、や、矢神君、こ……これ……っ」
 そう言って、相沢さんが僕に差し出したのは―――綺麗な包装紙に包まれた、小さな箱だった。

 ―――ええと…、
 これって、これって、もしかして……、

 凄く、凄く、都合のいい想像が頭にポンと浮かぶ。だって、包装紙の柄が、一瞬水玉模様に見えたけど、よーく見たら小さなハート柄だし、今日はその柄にぴったりなイベントの日だし。
 でも…唐突すぎて、なんか、全然信じられない。僕は、キョトンとした顔のまま、相沢さんの顔を見上げた。
 「これって、えっと…その…、も、もしかして、チョコ?」
 もうちょっと訊き方があるだろ、って、心の中で自分で自分に突っ込みを入れる。でも、僕の不躾な質問に、相沢さんはガチガチに引きつってた顔をほんの少しだけほころばせて、小さく頷いてくれた。
 「あ…あの…そそそそれ、って、えええと…」
 慌てすぎて、口が上手く回らない。あわあわ、と僕が焦りまくっていると、少し余裕が出てきたのか、相沢さんはくすっと笑った。その、はにかんだ感じの笑い方が、いかにも相沢さんぽくて、焦りながらも僕はちょっとドキッとした。
 「…ずっと、ね、思ってたの」
 「え?」
 「部活の帰りに、時々、矢神君が卓球部で後片付け率先してやってるの見かけるようになってから、ずっと―――あたしも、思ってたの。こんな背が大きいばっかりの地味な女の子じゃ、矢神君も恥ずかしいだろうな、って」
 「……」
 「もし私が、麻紀ちゃんみたいに小柄で、ハキハキしてて明るい子だったら、頑張って告白できるのになぁ、って……渡す勇気もないのに、チョコだけ買って、ずっとくよくよしてたの」
 「ほ…ほんとに?」
 コクン、と頷くと、相沢さんは、やっとホッとした表情を浮かべた。
 「昨日の、ビックリしたけど、嬉しかった」
 「……」
 「…凄く、カッコよかった。昨日の矢神君、あそこにいた誰より、大きく見えたよ」

 そう言って笑う相沢さんの目は、僕の目よりずっと上にあって。
 多分、すぐ傍を通り過ぎる登校中の生徒たちの目には、アンバランスな組み合わせだな、って映ってるんだと思うけど。
 この時、僕には、目の前で恥ずかしそうに笑う相沢さんが、この世で一番可愛くて、小さくて、守ってやらなきゃいけない女の子のように見えた。

 …うん。
 やっぱり、背比べなんてしても、何の意味もない。

 身長の差、14センチ5ミリ。
 でも、僕と相沢さんの“中身”は、きっと同じ位の高さなんだと、この時思った。

今回のリクエスト、「告白する前にクラス中に好きな人がバレた哀れな男の話」。これはもう、どういう経緯でクラス中にバレてしまったのか、そこんところが鍵でしょう、と思いました。
で、行き着いた答えが、これです。授業中の居眠り&寝言……すみません。結城は実際、中学生の時、数学の授業の真っ最中に居眠りして夢を見たことがある猛者です(笑)
バレた結果が吉と出るか凶と出るかが問題でしたが、卓のキャラからして、ハッピーエンドしか浮かびませんでした。お幸せに。
むしろ今回は、サブキャラである筈の雄介に、妙に力が入っているような…。何だよ、リルカちゃんて。あ、勿論、リルカちゃんは、架空のキャラクターです。

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