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: 序 章

 私の家は、その商店街の真ん中あたりにあった。

 お隣がパン屋さん、お向かいは靴屋さん。そしてうちは、おじいちゃんが、小さな時計屋さんを営んでいた。

 私がその家に引っ越したのは、7歳の時。サラリーマンをしていたお父さんが、東京から神戸に転勤した時だ。
 「僕の両親は既に他界してるし、君のとこだって、お義父さんの一人暮らしだろう? だったら、いい機会だ、神戸ではお義父さんの家にみんなで住もうよ。僕も浅草育ちだから、長田みたいな古い商店街は大好きだよ」
 小さかった私は、両親のそんなやりとりを意味もわからず聞いていたけど、夏休みになると遊びに行くあの時計屋さんが、この春からは自分の家になるんだな、と思って、ちょっと不思議な気分になった。

 3DK木造2階建てに店舗付きのその家に、おじいちゃん、お父さん、お母さん、私の4人暮らし。
 それから2年して、弟の紘太(こうた)が生まれたから、それからは5人暮らし。
 私が11歳の時、おじいちゃんが亡くなって、そこから先は、また4人暮らし。せっかくのおじいちゃんの形見だからって、お母さんはお店をずっと守り続けた。


 学校から帰って、ただいま、と店を覗けば、微かな時計の音が二重奏三重奏になって私を出迎える。
 修理品の時計を見ていたお母さんが振り返って、おかえり、と返事をする。私は、今日学校であったことを1つ2つ話をして、受験勉強のために2階の部屋へと上がっていく。
 紘太は、カエルやミミズを捕まえてきては、お母さんに叱られる。大泣きする紘太を、会社から帰ってきたお父さんが、よしよし、と言って宥める。
 夜には、まだ小1の紘太は、両親と一緒に1階の畳の部屋で川の字になって眠る。
 私はもう大きいので、2階の自室のベッドで眠る。窓から少しだけ覗く夜空を仰ぎ見て、明日は晴れるかな、なんて思いながら。

 

 そんな日が、明日も、明後日も、ずっとずっと続いていくと思っていた。

 

 あの朝―――世界が崩壊したかのような衝撃に、揺り起こされるまでは。


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