anthology2 TOPNEXT→

&-00:“&”


 ―――出会えてなかったら、どうなってたと思う?

 なんてことを、話した。神戸港を見下ろす高台にある、大切な人が眠る場所からの、帰り道。

 そして、2人とも、同じことを言った。
 “多分、普通に生きてたんだろう―――それまでと同じように”、と。


 みんな、ちょっとずつ欠けている部分があって当たり前。
 その欠けたパーツが大きすぎると、ちょっとだけ、生きていくのが難しくなるだけ。
 欠けた部分に目を瞑って、一人前の顔をして生きていくこと位、2人には簡単なことだった。そうできるだけの知恵も、賢明さも、理性もあったから。
 家族、友人、恩人……優しい人も、たくさんいた。そして彼らを愛し、大切にも思ってきた。たとえ心の奥底に、決して曝け出せないものを抱えていても―――2人は彼らのよき友人、よき子供だった。

 だからきっと、出会えてなくても、日常はさほど変わらない。
 一人前の大人として、責務を果たし、適度に周囲と親交し、思いのほか穏やかな人生を送っていっただろう。

 ただ―――欠けたままのパーツを、埋める気には、なれなかったかもしれない。
 きっとその分だけ、今よりも少しだけ苦しくて、今よりも少しだけ寂しくて、今よりも少しだけ面倒な人生を歩んだだろう。


 出会ったことで、欠けてしまったパーツが、埋まった訳じゃない。
 欠けてしまったパーツを埋めるために、一歩、踏み出す勇気を、持てただけ。

 失ったものを取り戻したのは、自分自身の力。相手は、勝ち取るためのエネルギーをくれただけ。
 失敗しても、ボロボロになっても、必ず受け止め抱きしめてくれる人がいる―――そう信じることができた。…ただ、それだけだ。


 今もまだ、失われたパーツは、完全には戻らない。
 きっと一生、この小さな空洞を抱えたまま、生きていくのだろう。そんなものだ。
 それでも、2人は、1人ずつでも生きていける。支えられなくては立てないほど、弱々しい生き物ではないから。

 だけど、2人でいたいから。
 お互いさえいれば、それだけで、もっと人に優しくなれるし、もっと現実に立ち向かう力が持てるし、もっと高みにある夢を目指すことができるから。


 だから、これからは―――2人で紡ぐ、数々の物語(アンソロジー)


anthology2 TOPNEXT→


  Page Top
Copyright (C) 2003-2012 Psychedelic Note All rights reserved. since 2003.12.22