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 「Fake!」、長期にわたりお付き合いいただき、ありがとうございます。
 いや、本当に……思いのほか時間がかかってしまいました。なんか、書けば書くほど、それぞれのキャラが勝手に動きだして、どれもこれも省けない感じになってきて。

 この物語は、既に結城の他作品をお読みの方にとってはお馴染みな登場人物・一宮 奏の物語です。
 であると同時に、短編に登場した歌姫・如月咲夜の物語であり、その想い人である麻生拓海の物語であり、なおかつ、全ての長編作品にバイプレーヤーとして登場している稀有な人物・佐倉みなみの物語であり……。
 要するに、いろんな作品の「続編」的存在でありながら、実は全く新しい作品でもある、という、妙な話なのです。準主役救済作品、なんて言い方もできますね(笑)
 (もっとも、咲夜に関しては、短編を書いた段階でこの「Fake!」の原型であるアイディアは既にあったので、咲夜や拓海は、最初から「Fake!」のキャラクターと言えなくもないです)

 うちの代表作である「Step Beat」は、成田瑞樹と藤井蕾夏という、心に傷を持ち、他人に心を開けない同士が、運命的に出会い、その運命のままに結びつき、その絆でもってお互いの問題を克服していく話でしたが―――実際問題、ああいう2人というのは実に稀な存在だと思うんですよ。
 その辺にいる普通の人たちは、片想いだったり、両想いだったり、実に様々な恋愛を経験している。中には打算だらけの恋もあるし、運命だと思ったらあっという間に壊れる恋もあるし―――でも、それが当たり前。だって、人間は、変化していく生き物だから。
 瑞樹と蕾夏の、どうやっても切れることも壊れることもない絆を描き終えた時、そういう「当たり前の人間」、「揺らぎのある人間」が描きたくなったんです。
 もがいて、苦しんで、時には嘘をつき、嘘をつかれ、間違った道に行っちゃったりしながら、ずっとずっと求めてる―――揺らぐことのない、自分の望む「真実」を。そういう、あがいてる人間を描きたいなぁ、と。
 でも、プロットを練っていくうちに、気づいたんです。
 「真実」って、絶対のものだろうか? 人が変化する生き物であるなら、その人が変化するにつれ、「真実」だって変化して当然なんじゃないだろうか。
 蕾夏に対する奏の気持ちも、拓海に対する咲夜の気持ちも、本人は変わってないと思ってたって、いつの間にか変質し、形を変え、「好き」の種類も微妙に変化していく―――気づいた時には、「1番」は別の人になってた。それって、信じていた「真実」が、いつの間にか「真実」じゃなくなってた、ってことだよなぁ…。
 …そうか、なるほど。
 みんな、“今”の自分にとっての「真実」を求めてるのか。
 だから、「真実」と思ってた恋が終わってしまっても、そこで完全には燃え尽きない。失恋を経験した“今”の自分が求める「真実」が、また新たに生まれる。それを追いかけて、またもがく―――その繰り返し。
 なんだか、打たれても打たれても起き上がってくる、不屈のボクサーみたいですね(笑)
 でも、それが、現実。人を傷つけ、人に傷つけられ、何度も何度も転びながら、“今”の自分にとっての「真実」を見つける―――そんな人を描けたらいいな、と、「Fake!」全体を通じて思ってました。ずっと。

 さて、こうして「Fake!」は終わったのですが……たぶんに消化不良なところがあるのは、結城も読者さんも同じでしょうね(笑)
 実を言えば、もっと先までのストーリーが、結城の中にはあります。それは、奏と咲夜の恋愛もそうだし、それ以外も。ただ、「Fake!」に関しては、奏と咲夜が、それまでの恋に別れを告げ、新しい恋を見つけるまでの話、と最初から決めていたため、「えっ、ここで終わり!?」な結果となってしまったのです。
 マリリンの家族の話や、木戸の家庭事情、優也の大学の友達の話など、伏線のみで本体がほとんど出てきていない話題もあります。どれもこれも、このまま飲み込むには惜しい話ばかりです。
 ですので―――まあ、いつものことではありますが、それらのエピソードが全部出し切れるまで、まだこの連中のお話自体は、続くことになると思います。  


 最後になりましたが。
 まとめ読み派の皆様。大変大変、長らくお待たせいたしました。これにて「Fake!」、完結です。
 でも、この小さなアパートを舞台にした物語は、もう暫く走り続けるでしょう。その時にはまた、お付き合い下さい。


2006.11.30 結城とも


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