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― Wedding Complex -1- ―

※注意※「Step Beat COMPLEX」終了時から8ヵ月後のお話です。全話読了後にお読み下さい。

 

 「意外に似合ってたわねぇ、佳那子の白無垢姿」
 8月のとある吉日。
 親友の晴れ姿を思い出してうっとりする奈々美の隣で、その夫は、何故かハンカチで目を押さえていた。
 披露宴スタートまでの待ち時間、ロビーは、暫しくつろぐ招待客で埋め尽くされているが、その中で、こんな風に泣いている人物は和臣ただ1人だ。やはり目立つのだろう。見知らぬ招待客の視線が、時折、和臣を掠めていく。
 「…ちょっと。なんでカズ君が泣いてるの?」
 「うう…」
 奈々美に問われ、和臣は、ずずっ、と鼻をすすって顔を上げた。
 「な、なんかねぇ…。佳那子さんの花嫁姿に、愛華の花嫁姿がだぶっちゃって―――オ、オレ、将来、あんな格好の愛華に“パパ、いままでお世話になりました”なんて言われたら…あああああっ」
 白無垢姿で三つ指をつく愛娘を思い描き、和臣はますます動揺する。
 ちなみに、神崎夫妻の愛娘・愛華は、現在、0歳児である。
 「そんな…20年以上未来のことで、今から動揺しなくても…。第一、そんなドラマみたいな典型的な挨拶、今時まともにする花嫁なんていないってば」
 「でも想像すると泣けてきちゃうんだからしょーがないだろっ」
 「想像しなければいいでしょっ」
 「だってっ、」
 「おい、カズ」
 更に反論しようとした和臣の肩を、誰かがポン、と叩いた。
 驚いて振り返り、仰ぎ見る。そこには、一眼レフを手にした、スーツ姿の瑞樹が立っていた。
 「あ、成田」
 「…お前、なんつー顔してんだ」
 うるうるした目で、鼻の頭を赤くしている和臣を見て、瑞樹が呆れ顔をした。瑞樹の背後からひょっこり顔を出した蕾夏も、和臣の顔を見て、ちょっと目を丸くした。
 「あれ? カズ君、何泣いてるの?」
 「え…っ、い、いや、ちょっと」
 「まさか、娘の花嫁姿に今から泣きが入ってんじゃねーだろうな」
 瑞樹の鋭い突っ込みに、和臣と奈々美がギクリとする。が、1人、蕾夏だけは、瑞樹の推理をあっさり笑い飛ばした。
 「あはははは、まさか。愛華ちゃん、まだ1歳にもなってないじゃない。いくらカズ君でも、そこまで想像力逞しくないよ」
 「……」
 2人の顔が、引き攣る。引き攣りながらも、「ね、奈々美さん」と蕾夏に同意を求められ、2人は咄嗟に笑顔を作った。
 「そ、そりゃそうよー。当たり前じゃないー。ねぇ、カズ君」
 「う、うん。やだなぁ、成田。親バカは認めるけど、いくらなんでもそこまでは行かないよ」
 そんな2人を、軽く一瞥して。
 「…ま、そこまでバカじゃないよな」
 「…………」
 そう返す瑞樹の目が、ふっ、と冷淡に笑うのを見て、和臣と奈々美は、自分達のリアクションがまずかったことを悟った。
 ―――下手に否定せずに、実はそうなんだよー、って冗談めかして流せばよかった…。
 「それより、これ」
 後悔する2人をよそに、瑞樹はさっさと、自分の用件に入った。
 「例の余興で使うから、持っとけよ」
 そう言って瑞樹が和臣に差し出したのは、2枚のカード。
 「奈々美さんもやる? 予備で何枚か作ってきてるから、人数増やせるよ」
 “例の余興”に参加するのは和臣だけなので、蕾夏が奈々美にそう訊ねる。が、奈々美は、慌てた様子で首をぶんぶん横に振った。
 「じょ、冗談でしょ! 夫婦揃ってあの2人に恨まれたらかなわないもの。私は大人しくギャラリーに徹するわ」
 「アホか。計画に乗った段階で、全員“共犯”に決まってんだろ」
 さっくり。
 血も涙も出ないほどにさっくりと、瑞樹に斬られる。…確かに。今回の件、完全な部外者なんて誰もいないのだ。出席者全員の了承が得られたからこその計画であり、了承した段階で、いわば全員“共犯”なのだから、恨まれるなら出席者全員―――まさに、一蓮托生である。
 「久保田さんのお友達なんて、誰が代表で出るか、ジャンケンで決めてたし。全員出たがってるみたい。ノリのいい人達でよかった」
 「佐々木さんの友達も、どっちが勝つかで賭けやってたしな」
 機嫌良さげにそう言い合う瑞樹と蕾夏を、2人は、ちょっと恐ろしいものでも見る目で見上げてしまった。
 何故なら、今回の“例の余興”の裏事情を、2人はよく知っているから。
 「じゃ、私達、まだあちこち配りに行かなきゃいけないんで」
 多分、同様のカードが入っているのであろう紙袋を抱えなおし、蕾夏がニコリと笑って軽く頭を下げた。2人も気を取り直し、笑顔を作って手を振って見せたのだが。
 「…あ、そうだ」
 瑞樹と一緒にその場を立ち去りかけた蕾夏は、クルリと振り向き、笑顔のままこう付け足したのだ。
 「カズ君。今からそんな風だと、将来、愛華ちゃんに鬱陶しがられちゃうから、今から子離れ訓練しといた方がいいよ」
 「……」
 ―――“あはははは、まさか”って言ってた癖に。
 「じゃねー」

 悪魔コンビ、健在。
 最近、大人しくしてると思ったのに―――むしろ若干パワーアップ気味の2人の様子に、和臣も奈々美も、同時に同じ事を考えた。
 今日の披露宴、きっと荒れるな、と。


***


 「…なんか、寒気がするわ」
 新郎新婦入場前、扉の前で待機していた佳那子は、背筋を走る悪寒に、白無垢姿の体をぶるっと震わせた。それを見て、隣に立つ紋付袴姿の久保田が、少々心配げに眉をひそめた。
 「風邪か?」
 「違うわよ。なんだか嫌な予感がするのよ。久保田は何も感じない?」
 「…いや…うーん…」
 実を言えば、かなり、嫌な予感はしているのだが―――佳那子と一緒になってナーバスになっていたのでは、どうしようもない。久保田はとりあえず、佳那子を安心させる方を選んだ。
 「大丈夫だろ。式次第は、一切隙がなく作ってるんだし」
 「そうなんだけど…」

 大体、久保田の祖父と佳那子の父が出席する、という、ただそれだけで大問題だ。
 彼らは、結婚式そのものに関しても、神式だ、いや教会式だと言い合って大騒ぎしていたし、披露宴の演出も、やれケーキは世界最大級を注文してやるぞ、だの、政治家や芸能人も合わせて500人は呼びなさい、だの、ギャーギャー口を挟みまくっていた。それを、九州から上京して打ち合わせに参加していた久保田の姉が、「一体誰の結婚式だと思ってるのよ!? そんなにやりたきゃ、おじいちゃんと佐々木先生が結婚すれば!」と倒錯的な苦言を呈したことで、なんとか主導権が久保田と佳那子に戻ってきたのだ。
 主導権を握った2人は、とにかく、一部の隙もない披露宴の計画を立てた。
 キャンドルサービスの類はパスし、花束贈呈もなし。自分達以外に弄られそうなイベントは徹底的に排除だ。ケーキカットだけはプランに組み込まれていたので仕方なく入れたが、ケーキにおかしな仕掛けをされてはたまらないので、最終仕上げを佳那子自身が手伝うという“手作りプラン”にしてもらった。
 司会者も危険だ。祖父や父の息のかかった者ではまずい。プロの派遣会社に直接依頼し、この道15年の男性のベテラン司会者を派遣してもらうことにした。
 余った時間は全て来賓達の挨拶や余興で埋め尽くす。勿論、これを頼む上司や友達の選択も慎重にしなくてはいけない。間違っても“彼ら”とかには頼んではいけない。誰、とは明言しないが。
 結果、参列者は合計100人程度、祖父や父の関係者は入れず、あくまで久保田と佳那子自身がお世話になっている人々のみを呼ぶ、という、極々当たり前の披露宴のプランが完成した。そのプランに、祖父も父も、特に文句は言わなかった。
 ただ、1点。
 「お色直しもないのか? わたしは佳那子のドレス姿がどーしても、どーーーーしても見たいんだ。そんな望み1つも叶えてくれないなんて、なんて親不孝な披露宴なんだ」
 と佳那子の父が半泣き状態で言うので、仕方なく、式の途中に1回だけお色直しを入れることになった。
 「佳那子さんも、白無垢姿じゃあ、せっかくの豪華な料理もほとんど食べられやせんだろう。社長さんの挨拶が終わり次第、早々にお色直しをしといた方がよかろう」
 と善次郎も言うので、入場、乾杯、ケーキカット、社長の挨拶の冒頭セレモニー4つが終わったら、早々にお色直しのために退席することとなった。
 本当は1秒足りとも、会場を空けるような危険な真似はしたくなかったのだが…まあ、これ位はしょうがない。それ以外、何ひとつ注文をつけなかった2人に、久保田も佳那子も内心ホッと胸を撫で下ろしていたのだ。

 だが、しかし。
 「…聞き分けがよすぎて、不安なのよねぇ…」
 「…確かにな」
 それに。
 ―――あいつらが、特に何も手を回してる様子がないのも、気になるよなぁ…。
 和臣と奈々美の結婚式で、普通ではありえない「両親から会社の先輩への花束贈呈」なんて企画を実現させてしまった、あの、悪魔コンビ。
 何か仕掛けてくるだろう、と身構えていたのに…そんな様子は、微塵も見られない。いや、上手く隠しているだけかも―――当事者達にバレるようなサプライズなど、あの2人に限ってはあり得ない気もするし。

 「そろそろ、ご入場の時間ですので」
 ホテルの係員の言葉に、2人して、我に返る。
 幾多の不安はあっても、もう披露宴スタート1分前。
 新郎新婦は、まな板に乗った鯉の気分で、ドアの前で背筋を伸ばすのだった。

***

 披露宴冒頭は、つつがなく進行した。

 「えー、年寄は話が長いから、と倦厭されてはかなわんので、わしからの挨拶はとりあえず“めでたい!”の一言のみとさせていただきます。では、隼雄、佳那子さん、本当におめでとう」
 おじいちゃんの顔を立てないとうるさいから、と両親に頼み込まれて、乾杯の音頭を善次郎に任せたのだが、思いのほか適任だったようだ。僅か30秒足らずの乾杯の挨拶とともに、一同無事、乾杯とあいなった。

 ケーキカットも、佳那子が仕上げに加わった、といっても、それは変な仕掛けがないかどうかの確認がメインで、実態はちょっと苺を乗せたりした程度の話なので、見映えはなかなか美しい(と久保田が佳那子に言ったら、1発どつかれた)。
 こんなセレモニーいらねーよ、大体、初めての夫婦の共同作業が“ケーキを切ること”って意味不明だろ、などと思いながらも、ベテラン司会者にそう言われれば、2人してニッコリと笑顔でナイフを握ってしまう。
 「あー、だめだめ、わざとらしい。もうちょい自然に笑え」
 来賓の何名かも、デジカメなどを手に撮影ポジションに集まる中、唯一、プロカメラマンとしてその場に混じっている瑞樹が、不機嫌そうにダメ出ししてきた。
 ―――馬鹿、こんな状況で自然に笑えるかよ、普通っ。
 10台近いカメラに、かなりの至近距離から狙われているというのに―――久保田はまだしも、佳那子など頬の筋肉が痙攣を起こしそうになっている。いいから貴様らさっさと撮れ、という本音は隠しつつ、久保田はとりあえず笑顔をキープしておいた。
 「あ、佳那子ー、今度はこっちに目線ちょうだーい」
 「久保田、こっち向けよ。横顔しか撮れねーよ」
 瑞樹以外の素人カメラマン達も、それぞれにベストショットを撮りたいらしく、いつまでも注文をつけてくる。最後には、同じ位置で止めたままでいたナイフを握る手が、2人ともぷるぷると震え出す有様だったが―――まあ、特に、問題なく、一番面倒だったイベントは幕を閉じた。

 続いては、2人の勤め先である株式会社ブレインコスモスの社長による祝辞。これも、当たり障りのない内容で、スルスルと進んでいく。
 ただし、最後の最後で、とんでもない事実が発覚した。
 「まあ、ここだけの話ですが、2人が入社した当初から、システム部の中川部長と企画部の須藤部長が“2人がいつ結婚をするか”の賭けをしていたんですが―――おい、君ら、何年って賭けてたっけ」
 来賓席で、社長の隣に座っている中川部長に訊ねると、座ったままの中川部長が、
 「いやー、3年ですよ。短く設定しすぎました」
 と苦虫を噛み潰したような顔で答え、続いて、更にその隣に座っていた須藤部長も、
 「わたしなんざ2年4ヶ月ですからね。大負けですよ」
 と不満げに答えた。
 「ま、そういう訳で、2人とも短めに賭けた中、唯一わたしが“6年”という超ニアピン賞を獲得しまして、見事、叙々苑の特上カルビ焼きを手に入れたことをご報告しておきます」
 ―――いつの間に、おやじ連中の間でそんな賭け事が進行してたんだよ。
 社員ばかり集まった来賓席から「よっ、さすが社長!」と拍手と喝采が起こる中、久保田はあきれ返り、佳那子は血の気の引いた顔で肩をふるふると震わせた。
 「今は3人で、“まだ決まっていないらしい2人の新婚旅行先がどこになるか”を賭けてるので、君たち2人は、決定し次第、わたしの所に報告に来るように」
 前から変な会社だとは思っていたが。
 ―――ここまでとは、思ってなかった…。
 頭を抱えたい気分だったが、2人は高砂席から、一応笑顔で「ご報告させていただきます」と社長に返しておいた。ああ、こういう時、優等生すぎる自分達の対応が腹立たしくなる。


 「それではこれより、新郎新婦は、お色直しのため一時退席させていただきます」

 こうして、お色直し前のセレモニーは、全て無事終わった。
 音楽と拍手な鳴り響く中、退席する久保田と佳那子は、早く着替えることと、式場に戻ってからの一連のスピーチや余興のことで、早くも頭が一杯になっていた。

 だから、2人共、気づかなかったのだ。
 2人を送り出す来賓達の顔が―――なんだか、異様なまでに嬉しそうな笑顔だったことに。

***

 「なんだか、着せ替え人形にされた気分」
 さっきまでの白無垢姿からうって変わり、ゴールドが所々入ったオフホワイトのドレスに身を包んだ佳那子が、少しため息をついた。
 「綿帽子を取ってかつらを着けさせられたと思ったら、今度はこんな、マリー・アントワネットみたいなドレス…」
 ドレスはドレスでも、フランス人形のように裾が広がったドレスは、長身の佳那子には似合わない気がした。いや、実際には結構似合っているのだが、日頃、裾の広がったスカート自体全く着ない佳那子からすると、鏡に映る自分は違和感の塊だったのだ。
 「俺のこの格好だって、結構うんざりものだぞ?」
 久保田も、シルバーグレーという、普段なら考えられない色目のタキシード姿だ。硬派で、スーツが国産であること以外に服装に関するこだわりが一切ない久保田からすると、自分がこんなもんを着てるなんて、本当は信じたくないような格好である。
 「久保田は、そこそこ悪くないと思うけど」
 「いや、お前の方がまだ違和感ないぞ」
 「…どっちにしても、“もの凄くピッタリマッチしてる”訳じゃないのは確かよね。お互いに」
 「…まあな。ごめんな。うちの親、センス悪くて」
 結婚式にも披露宴にも口出しさせてもらえなかった久保田の両親が、唯一、口を挟んだのがこの衣装だったのだ。2人は嫌だと言ったのだが、両親が何かの映画で見た衣装がちょうどこんな感じだったらしく、「あの衣装は素敵だった、だからあなた達にも絶対合う筈だ」と言って譲らなかったのだ。着る人間が変われば素敵さも変わるんだぞ、という当たり前のことを、あの両親は理解していないらしい。
 「でも、ま、一生に一度位、こういうヒラヒラも悪くないわ」
 苦笑した佳那子は、そう言って、フワフワしたドレスの裾を軽く翻してみせた。久保田の親にケチをつけたくないから、というよりも―――実際、もう二度と着ることはないだろうドレスを、佳那子なりに楽しんでいる部分もあったのだ。
 「久保田の貴族風タキシードも、多分、二度と着る機会ないから、いっそなりきって楽しんじゃった方がいいわよ」
 「そうだな。どのみち、もう鏡見る機会もねーんだから、自分が着てる服なんて見えないしな」
 久保田もそう言って苦笑を返した時。

 「そろそろ、お時間ですので」

 係員が、そっと近づいてきて、2人に声をかけた。
 「ご準備は、よろしいですか?」
 清楚な和服姿のホテルの係員2人が、久保田と佳那子の衣装を、軽く整える。それに伴い、2人もいい加減な姿勢を改め、きちんとドアに向き直り、背筋を伸ばした。
 「はい、お2人とも、よくお似合いですよ」
 「…はあ、どうも」
 ほんとかよ、と思いつつも、にこやかな従業員に曖昧な笑みを返すと、
 「では、お願いします」
 2人に付き添って会場内に入る筈のその係員は、何故かそう言って、すっ、とその場を離れた。

 ―――え?
 と、2人が思ったのも、つかの間。

 「はい、了解しました」

 背後から近づいた声と同時に、

 ガッチャン、

 という、妙に金属質な音が、久保田と佳那子の手元で響いた。

 ギョッとして手元を見下ろすと、そこには…久保田と佳那子の手首を繋ぐ、いかにも丈夫そうな、銀色の手錠。
 「はい、痛くないですかー?」
 とにこやかな声で背後から問いかけてくるのは、黒のノースリーブのワンピースを着た、蕾夏だった。
 「ちょ…っ、ら、蕾夏ちゃんっ!!!」
 「はいはい、ちょっと失礼」
 今度は久保田の背後から、涼しげな瑞樹の声が近づいてくる。
 あ、やめろ、と久保田が抵抗しようと思った時には、時既に遅し。シルク製の細い布が背後から目元に回され、あっという間に目隠しされてしまった。
 「こ…こら! おい、瑞樹! どーゆーことだこれはっ!」
 「ぎゃーぎゃー騒ぐなって。高砂席に着くまでの辛抱だから」
 「はい、佳那子さんもゴメンねー」
 呆気に取られている佳那子も、あっさり、蕾夏に目隠しされてしまった。蕾夏と自分では相当の背丈の差があるのに何故目隠しできたのだろう、と、佳那子は方向違いな所に疑問を感じて首を捻った。
 「あのね、これから2人にビッグ・プレゼントがあるんだけど、ドア開けるとすぐバレちゃうから、悪いけど高砂席に着くまでは目隠ししといて欲しいの。席までは、私と瑞樹が連れてってあげるから」
 「プ、プレゼント、って…お前らのやるプレゼントなんて、どうせ碌なもんじゃ」
 「ほー。この期に及んで、そんなこと言うのか」
 目隠しを解こうと振り上げられた久保田の手を、誰かが掴む。当然、その手の主は、瑞樹だろう。
 「去年、カズにしょーもない入れ知恵して、キョンシー倉木を俺に引き合わせた張本人なら、とっくに覚悟は出来てんだろ?」
 「…………」

 お前―――1年がかりでリベンジするんじゃねーよっ!!!

 「ごめんね。佳那子さんに恨みはないんだけど、佐々木先生と久保田さんのおじいさんの、たっての願いだったから」
 ちょっと申し訳なさそうな蕾夏の声に、パニック気味だった佳那子の背筋が一気に寒くなった。
 「お、おとーさん達と結託した訳!?」
 「ま、どこが発案元かは、とりあえず今はいいじゃない。はい、じゃあ、そろそろ行きますよー」
 「ちょ、ちょっと、待っ…」
 「ドア、お願いしまーす」

 駄目だってば! 開けないで!

 という佳那子の声は、届かなかった。

 バーン! と勢い良くドアが開け放たれるのと同時に、披露宴会場内から、拍手と歓声が、一斉に挙がる。
 そして流れてきた入場BGMは―――何故か、結婚式には場違いな、クイーンの名曲“We Will Rock You”だった。

 ―――これって…どっかのK−1の選手の、選手入場の定番BGMじゃなかったか?

 あまりにも不吉なBGMに震え上がりつつも、手錠付な上目隠し付では、どうしようもない。久保田と佳那子は、悪魔2人に導かれるまま、歓声に包まれる会場内へと足を踏み入れた。

(後編へつづく) 


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