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― 世界にたった1つの場所

 

 天気が不安定なこの国にしては、実に上出来な青空。
 その青空のせいか、空を見上げた奏の耳の奥には、咲夜が歌う『Blue Skies』が響いていた。

 ――― Blue skies, smiling at me, Nothing but blue skies, do I see......

 東京の空は、晴れてるかな。
 ふと、思いを遠く離れた空に馳せ、奏は小さなため息をついた。

 「おいおい、おめでたい席でため息とは、穏やかじゃないなぁ」
 背後から声をかけられ、振り返る。そこには、久々に見る叔父の―――時田郁夫の笑顔があった。
 ―――そういえば、ちょっと似てるかも。
 以前、瑞樹が拓海のことを「時田さんと同じ“食えないタイプ”」と表現していたが……改めて見ると、時田と拓海は、ちょっとタイプが似ている。顔そのものはまるで似ていないが、本当に信用していいものかどうか、とつい身構えたくなるようなこの笑い方が似てるのだ。
 「? 僕の顔に、何かついてたかな?」
 「…いや。目鼻口まゆげ以外、ついてないよ」
 思い出したくない人のことを思い出してしまい、ちょっと眉をしかめる。それを振り払うように、奏は両腕を上げ、思い切り伸びをした。
 「何、郁も、疲れて抜けてきた訳?」
 「んー、まあね。実は昨日、徹夜で撮影やってねぇ…。睡眠時間2時間は、さすがにきつかった」
 「そりゃ気の毒に…」
 「奏君も、久々の実家で、あんまり眠れなかったとか?」
 「…まあ、そんなとこ」
 別に、久々の実家だから眠れなかった訳じゃないけれど―――でも、時田に話すような内容でもないので、奏は適当に誤魔化しておいた。

 昨日、奏は、生まれ故郷であるイギリスに戻ってきた。目的は当然、累の結婚式に出席すること、だ。
 てっきり教会式だと思っていた奏は、最初、日曜日に結婚式がある、と聞いて不思議に思った。普通、どの教会も、日曜日はミサがあるため結婚式はやっておらず、よって、結婚式といえば土曜日に行われるのがイギリス流の常識だったから。
 が、どこでやるのか、を聞いて、納得した。
 『うん…考えてみたら、カレンは無宗教だし、うちだって似たようなものだから、むしろ教会でやるのは変なのかなぁ、と。で、ロンドンからそう遠くないとこにあるマナーハウスでやることにしたんだ』
 いわゆる“Civil Wedding(人前結婚式)”というやつだ。ライセンスのある建物でないとやってもらえないが、どうやら気に入った場所が見つかったらしい。実際、今日初めて来てみたが、ちょっとした古城といった風情の古いマナーハウスは、ロンドンからさして離れていないのに、趣もあっていいじゃないか、と奏にも思える建物だった。
 新郎の累は、なにせモデルをやっている奏と瓜二つの双子、新婦のカレンだって、あまり売れていないが、現役モデルだ。ドレスとスーツが様にならない訳がない。趣のある景色に、見映えする花嫁花婿―――そこに青空とくれば、これほど最高な結婚式はないね、といったところだろう。
 …唯一、奏自身の心の中を除いては。

 「…あ、そうだ、郁」
 色々訊かれる前に話を変えてしまえ、と、奏は何気なく、今言う必要もない話題を持ち出した。
 「成田から荷物、預かってるよ。今日は遅くなるから、明日にでも持ってく」
 すると、少々疲労気味だった時田の顔が、一気に晴れやかになった。
 「おお、サンキュー。いやぁ、心待ちにしてたんだよ」
 「一体、何頼んだんだよ?」
 「いや、1つじゃないんだけどね。成田君が撮った写真とか、日本の雑誌とか―――メインはね、カメラを手入れするクリーニングクロスなんだよ。いやこれが、日本でしか手に入らないシロモノでねぇ…。でも手触りといい使い勝手といい絶妙で。愛用してるのが破れちゃって残り1枚になったんで、成田君にまとめ買いをお願いしといたんだよ」
 「…あのなぁ。弟子をあんまりパシリに使うなよ。あいつ、むっちゃくちゃ忙しいんだぞ? 世界中のものがネットで取り寄せられる時代なんだから、それ位自力でやれって」
 呆れたように言ったが、時田は、これっぽっちも悪いと思っていない笑顔を奏に返した。
 「うーん、でも、FedexよりEMSより、奏君に運んでもらう方が、タダだし確実だろ?」
 「―――世界的カメラマンが、配送料ごときで弟子や甥をこき使うなよ」
 「ハハハ…。さて、と。あんまり抜けてると主役たちが不審がるだろうから、そろそろ戻ろうか」
 その点は確かに、時田の言う通りだ。奏は、もう一度大きく伸びをすると、時田に続いてぶらぶらとパーティー会場に戻った。


 パーティーは、会食が終わり、いよいよ恒例の新郎新婦のダンスが始まるところだった。
 カレンはなかなか優雅に踊っていたが、累の方はまるでロボットだった。あまりのぎこちなさに、あちこちから「Once more!(もう1回)」の掛け声が上がり、計3回も踊らされてしまった。
 既に両親が他界しているカレンは、打ち合わせの段階で、恒例の「花嫁とその父親のダンス」ができないことをしきりに気にしていたが、そこは母がもの凄いアイディアを出したそうだ。
 「別にいいじゃないの。これからは私たちと累とカレン、それに奏の5人で、1つの家族でしょ? みんなで踊ればいいのよ」
 そんな訳で、新郎でも父親でもない奏も、母やカレンと踊る羽目になった。それどころか、父や累とも踊らされた。男同士で踊って何が楽しいんだ、と思ったが、ノリのいい周囲の客からは、同じ顔をした奏と累のダンスが、新郎新婦のダンスよりウケる結果となってしまった。
 一通りのダンスが終わると、いよいよお祭り騒ぎの様相を呈してくる。当然ながら、奏はかなりの女性客からダンスに誘われたが、奏はその全てを笑顔で断った。
 「You turned unsociable, didn't you?(付き合いが悪くなったんじゃない?)
 カレンと古くから仲良くしているモデルから不服そうにそう言われても、「I'd just used up a day's worth of energy(1日の気力を使い果たしただけだよ)」なんて誤魔化して、ひたすら逃げた。
 実際、気力は、既に使い果たしているに等しかった。といっても、結婚式で、ではなく―――日本で。

 スーツのポケットに手を突っ込み、中に忍ばせたものを、そっと取り出す。
 日本から持ってきた携帯電話―――横のボタンを押して表示される時間は、当然、日本の時間のままだ。気づけば奏は、こっちに戻ってから、もう何度もこうして時間を確かめていた。

 今、日本は何時なんだろう?
 …咲夜は、今、何をしているだろう?

 賑やかなパーティーの輪の中で、奏はぼんやりと、日本を発つ前のことに思いを馳せていた。

 

***

 

 あの夜の翌朝。奏は、人生最大級の自己嫌悪とともに目覚めた。

 ―――…マジ…立ち直れねぇ…。
 ベッドの中で丸まったまま、本気で頭を抱えたくなった。
 どうにでもなれ、幻滅するならしろ、なんて思っていた癖に、一晩経って頭が冷静になると、頭の中にあるのは「後悔」の2文字ばかりだ。
 蕾夏に酷いことをした時だって、確かに後悔はした。けれど、それがあまりに深い罪だったので、後悔よりも恐怖が勝っていた。キリスト像の前に放り出された罪人みたいに、どうすればいいのかわからず、ただ自分の罪に怯えていた。
 でも、今回は―――もう、後悔としか言いようがない。
 黙っていれば、何もしなければ、これまで通り良い関係は保っていけていた筈なのに―――これでもし、咲夜が奏を避けるようになったら、友情と恋愛をはき違えている危険な男とみなして距離を置くようになったら……絶対、立ち直れない。そんなことになったら、隣に住み続けること自体、とてもできそうにない。あんなこと、しなきゃ良かった―――その言葉ばかりが、頭の中をグルグル回っていた。
 その一方で、奏は、後悔とはある意味対極にあるものとも、戦っていた。
 うずくまり、無意識のうちに指で触れる、自分の唇―――そこに残るキスの記憶は、奏を前後不覚になるまで酔わせるほど、強烈で、甘かった。かなり経験は豊富な方だと自負しているのに、たかがキス1つでこのザマか、と思うけれど……止まらない。目を閉じると、その時のことがリアルに蘇ってきて、どうしようもない渇望に襲われる。
 やらなきゃ良かった、と後悔している一方で、もう一度、と願ってしまう。矛盾する自分に、奏はますます頭を抱えてしまった。

 もう仕事にも行きたくないし、ベッドから出ることもしたくなかった。が、そんなわがままが通らないこと位、奏だってわかっている。いつもより若干遅い時間に、渋々といった感じでベッドから抜け出した。
 そこで初めて、昨晩、あの場から持ち帰ったブーケの存在を思い出した。
 優しい色合いの紫のブーケは、夜、結構気温が下がったのが幸いしてか、拾った時と何ら変わっていないように見えた。奏にとっては面白くなくても、咲夜にとっては大事な―――恋愛云々を抜きにしても大事な―――人からの贈り物だ。落としたんだからどう扱ってもいい、なんて風には、さすがに思えない。
 ―――このまま置いておいたら、しおれるよな。
 かと言って、これから咲夜の部屋のドアをノックして「はい、忘れ物」なんて渡す度胸は、とてもじゃないが持ち合わせていない。やむなく、セロファンやアルミホイルを取り除き、流しの排水口に蓋をして水を溜め、そこに花束を浸すことにした。

 当然ながら、窓を開けることなんて、できなかった。
 歌声どころか、物音ひとつしない部屋。でも―――わかる。そこに、咲夜がいるのだけは。
 機械的に朝食をとり、機械的に出かける準備をする間に、隣の部屋のドアが開く音がした。時間を見ると、いつも咲夜が出かけて行くのとほぼ同じ時間帯だ。
 ―――あいつ、どんな顔で出かけて行ったんだろう…?
 気になったが―――極力考えないようにした。

 

 「なあ、いっちゃん。何かあったん?」
 「え?」
 仕事中、テンに訊かれ、奏は目を丸くした。
 自分では、不審な行動はしていないつもりだ。予約の客も入っていたし、土曜から暫く休むので、他のスタッフ以上に率先して動くようにしていたから。なのに、振り返ってこちらを見ているテンの目は、明らかに不審そうな目だった。
 「なんか、変なことしてたか? オレ」
 「…変なこと、ちゅうか……なんや、時々ウチのこと、チラチラ見とるから」
 「……」
 …それは、気づかなかった。奏の背中を、冷や汗が伝った。
 「なんかウチに文句でもあるん? それとも告白したいとか?」
 「んな訳あるか。そうじゃなくて―――今、この店にいる女がテン1人だから、ちょっと訊いてみたいと思っただけだって」
 「訊いてみたい?」
 うっかり素直に答えてしまい、そのまんまテンに問い返された。しかもタイミングの悪いことに、客がちょうど途切れているときている。誤魔化しや逃亡は許さんで、という目で睨みすえるテンに負け、奏は仕方なく、訊いてみることにした。
 「…スゲー変なこと訊くけど、大した意味はないから、深読みはすんなよ?」
 「ええから、何?」
 「…例えば、さ。もしテンが、仲のいい友達程度には思ってるけど、恋愛感情は持ってないような相手に、いきなりキスされたら―――どうする?」
 その瞬間―――テンが、固まった。
 「―――…は……はいぃ??」
 「い、いや、だから言っただろ、変なこと訊く、って!」
 「そら、そやけど―――う、ううううーん、仲のいい友達程度、かぁ……。具体的に想像してみないことには、なんとも言えへんなぁ…」
 妙に焦った口調で言うテンに、じゃあ例えばオレ、とはさすがに言えなかった。ええと、と店内を見回し、適当な人材を見つけた。
 「じゃあ具体的に、山之内とかだったら?」
 「えっ、ヤマちゃん?」
 最近、テンと結構気が合ってよく喋っている、見習いスタッフだ。どんぐり眼を更に丸くしたテンは、直後、ますます苦悩した表情で眉根を寄せてしまった。
 「ヤマちゃん、なぁ…。その場のムードにもよる、かなぁ」
 「ムード?」
 「例えば、夜景スポットみたいにムードのある場所で、周りにもカップルとかぎょーさんおって、それまでの口調とか態度で、ヤマちゃんてばウチのこと好きなんやろか、なんてちょっと思ってみたりしたら、そのムードに流されて、うっとりお姫様気分に浸れるかも。とりあえず今は何とも思うてへんけど、ヤマちゃんの顔そのものは、結構好みやし」
 「…顔の問題なのかよ」
 「そらそーや。どんなムードになっても、ものごっつ苦手なルックスの男やったら、即アウトや。キス返せー、返せへんのやったら金置いてけー、言うてどつくわ」
 「…金の問題なのかよ」
 でも、まあ―――テンの言うことは、わかる気もする。金を置いていけ、とは思わないけれど。
 「何、いっちゃん、誰かにいきなりキスしちゃえ、って画策してるん?」
 「…いや、そういう訳じゃ」
 「そやったら、何? この質問」
 「だからその―――下に住んでる小説家の本で、そういうシーン出てきて、なんか納得いかなかったから」
 必死に考えて、適当に答える。途端、テンの顔が、一気につまらなそうになった。
 「なぁんや、フィクションか、紛らわしい。…全く、人の気も知らんと、デリカシーないことを…」
 「は?」
 テンが何やらぶつぶつ小声で言っているうちに、店のドアが開いた。現れた客に、2人して笑顔で対応する。それで、この話は打ち切りとなった。

 ―――その場のムードと、好みの相手かどうかで決まる、か。
 再び仕事に戻りながら、やっぱり奏は、その問題をついつい考えてしまう。
 その場のムード―――最悪。好みの相手かどうか―――わからない。ただ間違いなく言えるのは、咲夜が恋した相手と自分は、外見的に似ている部分はほとんどない、ということ。
 ……果てしなく、絶望的。やっぱり、やらなきゃ良かった―――ガクン、とうな垂れ、奏はまた落ち込んだ。
 ただ、どうしても気になること。
 自惚れなのか、単に都合よく記憶をすり替えているのか、そこは微妙な気もするが―――少なくともあの瞬間は、感じたのだ。咲夜の方からも、奏を求めてくるのを。
 実は、それほど劣悪なムードではなくて、意外にも奏は咲夜の好みのタイプで、それでテンが言うように、その場のムードに流されてしまった、ということなのだろうか?
 ―――それよりは、オレの勘違い、って方が、まだリアリティあるよな…。
 改めてそう思い、奏は、深いため息をついてしまった。

 

 その日の夜は、遅くまでミーティングをやっていたので、帰宅はいつもより遅かった。
 見上げた先にある咲夜の部屋は、カーテンがきっちり閉められ、その隙間から漏れる灯りも見えなかった。木曜日は、ライブのある日だ。
 ―――あいつ、ちゃんと歌えたかな。
 いや、それ以上に、昨日と今日、まともに物を食べることができただろうか? 良くなってきていただけに、不安だ。

 こんな状態で、日本を離れるなんて。
 毎日に近い頻度で顔を合わせ、いつも傍にいた咲夜と、こんな思いを抱えたまま何日も離れることになるなんて―――嫌だ。絶対嫌だ。
 でも、どうすればいいのか―――奏には、まだ答えが見えてこなかった。

***

 「アラ、おはようございます」
 挨拶の主は、マリリンだった。奏は、抱き上げたミルクパンをよいしょ、と抱きなおし、おはようございます、と返事した。
 「珍しいこと、一宮さんが1人でミルクパンを構いに来るなんて」
 「ハハ…、まー、そういう日もあるでしょ」
 1人で、という部分が、暗に「咲夜ちゃんは一緒じゃないのね」と言われている気がして、胸がズキズキ痛む。答える奏の笑顔も引きつっていた。
 昨日に続き、今朝もまた、奏は窓を開ける気にはならなかった。
 前日、水に浸しておいた花は、とりあえず綺麗な状態を維持しているようでホッとしたが、咲夜との間の不協和音も現状維持のままなのが痛い。明日には、日本を離れなければいけないというのに―――さすがに焦りを覚える。
 咲夜と話したり歌声に聴き惚れたりすることもなかった奏は、少々時間を持て余した。時間があると、途端に寂しさを感じる。で……ふと思いついて、ミルクパンの顔を見に来た、という訳だ。
 ―――要するに、温かさに飢えてんだろうな、オレ…。
 相手は、猫だが、生き物だ。人恋しい、という話はよく聞くが、似たような感覚で、何か生きて温かいものに触れたい、という本能的欲求が、弱ってる人間にはあるのかもしれない。
 「マリリンさんこそ、随分早い時間に、どこ行ってたんだよ」
 明らかに外から帰ってきたらしいマリリンにそう訊ねると、ああ、と言って、マリリンは後ろ手に持っていたものを奏に掲げてみせた。
 「なんか、急にアイスが食べたくなってね。急いでコンビニで買ってきたって訳」
 「アイス? 朝から?」
 「アタシにとって、朝は、絶好の執筆時間だからね。頭を使うと、体はじっとしてても、ブドウ糖をどんどん消費してるから、糖分が足りなくなるのよ」
 「ふーん…」
 じゃあ、動かなくても頭を使えばダイエットになるんだろうか―――なんてぼんやり考えていた奏だったが、その時、上階から聞こえてきた足音に、ギクリとして肩をこわばらせた。
 トントン、と下りてくる足音は、木戸のものにしては軽い感じだ。そうなると、足音の主は、1人しかいない。
 「あ、咲夜ちゃん、おはよう」
 その姿を確認するより前に、マリリンが声をかけてしまった。逃げ場もなく、奏がその場に立ち竦んでいると、階段を下りきった咲夜は、一見いつもと変わらない調子で挨拶を返した。
 「あー、おはよ。珍しいね、朝早くから―――…」
 そこまで言って―――マリリンの背後にいる奏に気づき、咲夜が、息を呑んだ。
 「……」
 咲夜にとっても、予想外の展開だろう。その表情が、不自然に硬くなった。
 「…よぉ」
 「…おはよ」
 実に短い挨拶を交わす。咲夜はそのまま、奏からもマリリンからも目を逸らし、早足でアパートを出て行った。
 ―――…最悪…。
 思いっきり避けられてるじゃないか―――これ以上落ち込みようがなかったところに、更に一発、脳天に食らったに等しい。今にも地面にめり込んでしまいそうな落ち込み方に、奏は、マリリンの存在も忘れて、深い深いため息をついた。
 「…おや、ま。喧嘩?」
 不審に思うのも無理はない。けれど、マリリンの怪訝そうな声に、奏は何も答えなかった。無言のまま、腕に抱いていたミルクパンを物置の中の定位置に下ろしてやった。
 そんな奏の様子を、マリリンは、ちょっと心配そうな目で眺めていた。暫し、考え込むように首を傾けていたが―――やがて、思い切ったように口を開いた。
 「アタシは本来、人の恋路に口出しはしない主義なんだけど」
 「……っ、」
 恋路、の2文字に反応して、奏は思わず顔を上げてしまった。が、マリリンは飽くまで淡々と続けた。
 「明かした方が良さそうな情報を握ったまま黙ってる、っていうのも、あんまり好きじゃないのよね」
 「…情報…?」
 「前に、咲夜ちゃんから相談受けたのよ」
 咲夜からの相談―――それだけで、奏の表情が一変する。真剣な目つきになった奏を見て、マリリンは内心苦笑しつつ、話し始めた。

 「相談内容は、もの凄く大切な男友達について」
 「……」
 「その彼と咲夜ちゃんは、間違いなく“親友”で、男女の関係じゃない―――だから以前、彼に彼女が出来そうになった時も、咲夜ちゃんは2人が上手くいくよう、ずっと応援してたし、結局上手く行かなかった時は、何かもっとできたんじゃないか、って落ち込んだりした、って言ってた。…いい“親友”でしょ。名前は言わなかったけどね」
 そんなの―――誰か、なんて、確かめるまでもない。
 心当たりが、ありすぎる。第一、咲夜は滅多に“友達”なんて単語を使わない。話を聞く奏の顔が、一層真剣さを増した。
 「けどね。最近、駄目なんだって」
 「駄目?」
 「その彼には、恋人じゃないけど、男女の関係にあったらしい親しい女性がいて、その人は咲夜ちゃんも知ってる人で―――以前は、そのことを察していても、特に何とも思わなかったのに……最近、その人のことを考えるとイライラする。前の彼女みたいに応援する気になれない。何故なんだろう? …それが、咲夜ちゃんの悩み」
 「……」
 ―――佐倉…さん?
 それ位しか、思い浮かばない。いや、誰のことを指しているかなんて、どうでもいい。そんなことより。
 それって、つまり。

 ―――咲夜が、佐倉さんに……嫉妬、してた、ってことか?

 ドクン、と、心臓が大きく脈打った。
 いや、まだそれは、わからない。けれど、単純に考えれば、それが一番シンプルな答えだ。急速に速くなる鼓動を感じつつ、奏は緊張から唾を飲み込んだ。
 「当然、嫉妬が一番単純な答えでしょ。けど咲夜ちゃんは、アタシがそれを指摘したら、もの凄い勢いで否定してきたのよね」
 「え、」
 「自分にはずっと好きな人がいる。片想いだし、一生叶わないこともわかってるけど、その人だけを好きでいたい、って」
 「……」
 「でも、苦しい恋なんじゃ、すぐ傍にいる信頼できる人に心が動くのも当たり前だ、ってアタシは言ったんだけどね―――それが余計、まずかったみたい。本当にいて欲しい人の代わりに誰かを求めるなんて卑怯だ―――そんな卑怯な真似、世界で一番大切な友達には、絶対したくない、って言ったきり、完全にその話題は打ち切り」
 そこで言葉を切ると、マリリンは、はぁ、と大きなため息をついた。
 「ほら。咲夜ちゃんがよく言うセリフに、“恋は一生に一度でいい”ってのがあるでしょ」
 「あ、ああ…」
 「…でもねぇ……相談を受けて、アタシにはあの言葉、ちょっと違うニュアンスに聞こえたのよね」
 「…どんな風に?」
 眉をひそめる奏に、マリリンは、とても複雑そうな表情で、奏の目を見据えた。
 「恋は、一生に一度“でなければならない”―――アタシには、そう聞こえた」
 「……」

 ―――パラノイア、だ。
 そうだ。拓海が言っていたのが、まさにそれだ。
 父親の裏切りを許せない咲夜は、一方で、父の娘として、他界した母に負い目を感じている。自分は裏切らない、一生1人の人を愛し続ける、そうする義務がある―――人は人、と割り切れても、自分自身に関しては、病的なまでの潔癖さを求めている。…それが、咲夜のパラノイアだ。
 だとしたら―――咲夜の本音は、どこにあるんだ?

 「…なあ。それって、いつの話?」
 混乱しそうになる頭を手で押さえつつ、マリリンに訊ねる。返ってきた言葉は、かなり予想外のものだった。
 「日付までは覚えてないけど、3月の下旬ね」
 「3月!?」
 「そ。間違いないわよ。アタシ、その時のことがきっかけで、1本小説書き始めたんだもの」
 3月下旬―――そんなに前から?
 そう言えば、その頃に、例の拓海とのセッションライブがあって……あの、突然のキスがあったのだ。あれを機に、奏の中の咲夜の位置付けがブレ始め、やがてそこに友情以外のものを見つけたのだが―――もしかして咲夜も、そうだったのだろうか?
 「…なんかね。見てて、痛々しかった。病的な思い込みにがんじがらめになって、もう1人の彼への想いの正体を、自分でも認められずにいるみたいで」
 「…そ…っか…」
 「ま、そんな訳だから」
 半ば放心状態の奏の肩をポンと叩き、マリリンは口の端をつり上げた。
 「そろそろアイスが溶けそうだから、アタシはこれにて退散。…情報開示はしたから、あとはそちらで何とでも」
 まだ、完全に整理がついた訳ではないが―――奏も、どこか安堵したような笑みをマリリンに返し、頷いた。
 「…サンキュ。教えてもらって、助かった」


 わかったことが、2つある。
 1つは、咲夜の中に、奏に対する恋愛感情があるかもしれなくて、しかもそれは、拓海と佐倉の話を立ち聞きしてしまうよりずっと前で―――つまりは、失恋の痛手からくる錯覚ではない、本当の恋愛感情かもしれない、ということ。
 そして、もう1つは―――奏が、自分を男として見てくれている、なんて微塵も想像できなかったように、恐らくは咲夜も、奏の気持ちになどまるっきり気づいていないかもしれない、ということ。

 もし。
 もし、それが本当ならば―――……?

***

 郵便受けのチラシなどを手に、疲れた足取りで階段を上り始めた咲夜は、残りあと数段、というところで、足を止めてしまった。
 「―――…そ…」
 最上段に、奏がしゃがみこんでいたのだ。
 大きく見開かれた目が、動揺したように揺れる。名前を口にする前に言葉を失った咲夜は、黙ったまま、口元に手を置いた。
 「…さっき帰ってきた木戸さんに、スゲー不審がられた」
 バツが悪そうに低く呟いた奏は、弾みをつけて立ち上がり、手に持っていたものを咲夜に差し出した。
 「これ―――お前、落としてっただろ」
 「あ…」
 それは、咲夜がライブハウスの裏に落として行ってしまった、紫系統のブーケだった。花をもたせるために包装紙を剥いてしまったのだが、一応茎を輪ゴムでくくり、花束っぽい外見に整えてある。
 「…あ…りがと」
 残り数段をおずおずと上ってきた咲夜は、やっぱり気まずそうに、そのブーケを受け取った。ひとまず、どうすればいいんだか、と悩んでいたものが1つ決着を見て、奏はホッとしたように息を吐き出した。
 けれど、本当の目的は、これからだ。
 「―――部屋、入ってからだと、開けてもらえないかと思って」
 「……」
 「話、いいか?」
 奏の、本音を探るような問いかけに―――咲夜は観念したように目を伏せ、小さく頷いた。


 鍵を開けるのに邪魔になるから、と、花束は一旦、奏が預かった。
 ガチャリ、とドアが開く。振り返り、目で「どうぞ入って」と奏を促すと、咲夜は先に立って部屋に入った。
 「…何か飲む?」
 奏に訊ねつつ、いつものように靴を脱ぎ、部屋の電気をつけようと、スイッチに手を伸ばす。
 「いや…、いい」
 答えながら―――奏は、スイッチに触れる直前で、咲夜の手を掴んだ。
 「!!」
 「このままで、」
 心臓が、壊れそうだ。
 けれど、今の奏には、明るい照明の下、お互いに真正面から向き合って真剣に話し合うだけの度胸も自信も、なかった。
 背後で、ドアが閉まる。暴れだしそうな心臓を宥めつつ、奏は、背後から咲夜を緩く抱きしめた。
 「…この、ままでいい」
 「……っ…」
 「この間みたいにキレないから。…信じろよ」
 キッチンの窓から射し込む廊下の照明のおかげで、部屋の電気はつけなくても、すぐ目の下にいる咲夜の様子位は、目で確認できた。
 咲夜は、逃げようとはしなかった。ただ突然のことに戸惑い、混乱しているらしい。手酷く突き飛ばされ、平手打ちの一発でも食らうかもしれないな、と覚悟してた奏は、マシな反応だと喜んでいいのやら、それすらできない程に怯えたりパニックになってるのかもしれない、と悲しんでいいのやら、複雑な心境になった。
 靴箱代わりになっている棚の上に、花束をそっと置く。深呼吸を、2度、繰り返した奏は、ゆっくりと口を開いた。
 「―――この前は、ごめん」
 「……」
 「いきなりあんなのって、ないよな。…反省してる。ごめん」
 「……別に、いいよ」
 少し掠れ気味の声で、咲夜はそう返事した。が、更に一言、付け加えた。
 「もう二度と、しないでくれるんなら」
 「―――悪い。それは、約束できない」
 びくん、と、咲夜の体が跳ねた。
 咲夜の顔が、ほんの少し、振り返ろうとする。奏の顔を見ようとして、というより、今の言葉の意味が読み取れないか、と、背後の気配を窺っているようだ。
 「…ど…いう、意味、」
 「…言ったまんま。二度としない、とは、約束できない」
 「……」
 「悪かったと思ってる。反省もしてる。でも―――咲夜に二度とキスしない、なんて、オレには言えない」
 「…っ、なんで―――…!」
 手で奏の胸を押すようにして、咲夜が、奏の腕の中で、体ごと振り返る。射し込む僅かな光の中見た咲夜の表情は、眉をひそめ、酷いことでも言われたような、ショックを受けたような表情だった。
 「酷いよ…! そういう事したいんなら、他にいくらでも女の子がいるじゃない! なんで私に!? なにも親友にそういう真似しなくたって…!」
 「なんでなのか、ホントにわかんないのかよ?」
 咲夜の言葉を遮るように割り込んだセリフに、咲夜の辛そうな表情が、疑問の表情に変わった。
 どういう意味、という目が、斜め下から見つめてくる。奏は、咲夜の背中に回した手に少しだけ力を込め、もう一度、言った。
 「…ホントに、わかんない? オレが何で、あんな真似したのか」
 「……」
 「お前が、麻生さんを庇ったからだ、って―――いまだに麻生さんに想いを残してるお前見て、悔しくて、腹立たしくて、妬ましかったからだ、って……少しも考えつかない?」
 「―――……」

 咲夜の目が、ゆっくりと、大きく見開かれていく。
 瞬きすら忘れて、奏の顔を、凝視する。そして、最大限まで目を見開いた咲夜は、奏を見つめたまま、まるで信じられないものを見たかのように、首を緩慢に振った。

 「…うそ…」
 「…嘘じゃない」
 「嘘、だって、私たち、友達…」
 「友達だから、なんだよ」
 ―――熱い。
 体の奥が、熱い。その熱に耐えるよう、咲夜の背中に回した手を、ぐっと握り締める。
 「そうだよ、咲夜とオレは、友達だよ。親友だよ。でも、それが何だよ? 友達に女感じるオレは、異常か? 他の、中身もよくわかり合えてない奴にでも感じるのに、心が通じ合ってる奴に感じて、何が悪い? “親友”って名前がついてるだけで、オレが咲夜を抱きしめたい、キスしたい、もっと触れたいって思うのは、間違ってんのか?」
 「……そ、」
 言いかけた言葉が形になる前に、奏は、想いの丈をぶつけるように、咲夜を抱きしめた。
 「…友達、じゃ…」
 「……」
 「親友じゃ―――好きになっちゃ、いけないのかよ…」
 「―――…」

 少し腕を緩め、咲夜の顔を覗きこむ。すると咲夜は、現実が受け止めきれていないみたいに、大きく目を見開いたままだった。
 コツン、と額に額を合わせると、怯えたように体を引こうとする。それを許さず、頬に手を添えた。
 咲夜は、少し震えていた。多分……奏も、微かにだが、震えている。ゆっくりと唇を寄せた時、微かに感じた吐息も、震えていたようだった。

 一瞬、触れる。
 そして、もう一度―――ただ触れ合うだけの、キスを交わした。

 伝わればいい。
 この手からも、腕からも、唇からも―――想いの全てが、咲夜に伝わればいい。
 単なる気の迷いでもなければ、蕾夏の代わりがして欲しいのでもない。咲夜だから、キスをしているのだと―――咲夜だから欲しいのだと、わかって欲しい。…今あるのは、ただ、それだけだ。

 ほんの数秒の、触れていいかどうか躊躇いながら、みたいな、短いキスだった。
 唇を離し、見つめた先の咲夜が、再び目を開ける。その目に、みるみるうちに涙が溢れてきた。
 「……っ……」
 涙が、頬を伝って、落ちる。
 咲夜の肩は、泣きじゃくってるみたいに、震えていた。口元に手を置いた咲夜の頬に、涙が伝った。
 「……ご…めん…、奏」
 「……」
 「ごめん―――ち…違う、の、これは」
 「……」
 「あ……頭の中が、なんかもう、いっぱいいっぱいで―――ごめん…今、何考えていいか、全然……何て答えていいのかも、自分の気持ちも、今、何も……」
 「…うん」
 咲夜の髪を指で梳き、また額を合わせる。
 「今は、オレの気持ちだけでいいから」
 「……」
 「…親友でも、恋人でも、呼び方なんて何でもいい。オレはただ、咲夜と今までみたいに何でも言い合える権利と―――こうやって咲夜に触れていい権利が、欲しいだけ。…それだけ、わかって欲しかっただけだから」

 咲夜は、泣きながら、一度だけ頷いた。
 けれど―――本当に、感情がキャパシティ・オーバーになっているらしく、それ以上何か言うことはなかった。

 

***

 

 「―――…奏、」

 ぼんやり窓の外を見ていた奏は、思いのほか近くから聞こえた声に、ハッとして振り返った。

 式の後、新郎新婦とその家族は、式を挙げたマナーハウスに宿泊していた。すぐに自宅に帰れる距離なので、どうにも妙な気分だが―――でもまあ、累たちの一生の記念となる日なのだから、こういう豪華な宿泊施設に泊まるのも、悪くない。
 「今日はお疲れ様」
 今日1日の結婚式のあれこれを労って、千里がそう言う。奏も微笑を返し、「お疲れ」と返した。背後を窺ったが、父や累たちの姿は見当たらない。どうやら千里1人で奏の部屋に来たらしい。
 「良かったわ、奏が出席できて。累はおにいちゃんっ子だから、もし出られなかった、新生活スタート第一歩目から、浮かない顔して1日過ごしてたと思うわよ」
 「げ…、勘弁しろよ。もう27だぜ?」
 「そうなんだけどね。累にとって奏は、兄弟であると同時に、憧れのヒーローだから」
 「ふははははは、いつの時代の話だよ。いじめっ子と取っ組み合いの喧嘩した頃のこと?」
 子供の頃はいつも、累を庇って喧嘩して、累は泣いてばかり、奏はあちこち傷を作ってばかりだった。暴力によって友情を深めてる、変なガキだったよな―――小学生の頃の自分を振り返り、奏は思わず苦笑した。
 千里もつられて笑っていたが―――ほっ、と息をつくと、微かな笑みを浮かべ、恐らくはそれが本題だったのであろうことを切り出した。
 「昨日の話……累にだけ、しておいたわ」
 「……」
 昨日の話―――昨晩、千里に話したことだろう。奏は、うん、と1度頷いた。
 「あいつ、何か言ってた?」
 「複雑な顔してたわ」
 「…そっか」
 「―――昨日は、詳しいこと訊かなかったけど、」
 千里はそう言って、少し表情を引き締めた。その顔が、母の顔から、カウンセラーに変わる。
 「あれは、瑞樹と蕾夏のことじゃ、ないのね?」
 「……うん」
 「瑞樹と蕾夏については、今は、どう思ってるの?」
 「…好きだよ」
 そう。今でも、勿論。
 「好きだよ―――サイコーに。今も蕾夏のことは好きだし、成田とはもっともっと一緒に仕事がしたい。あの2人の傍にいたいって思う。それも、オレの本音」
 「……」
 「でも、もし離れることがあっても―――それは、もう平気だと思う」
 「あの2人と離れても?」
 「そう。だから、たとえば、こっちに戻らなくちゃいけない事情が何かできたら、あの2人より、こっちに戻ることを優先する。大事な友達と気軽に会えなくなるのは辛いけど……生きていけないほどじゃ、ないから」
 千里の目が、穏やかに頷く。それが奏の本心と感じ取れたのだろう。
 「じゃあ、改めて、聞かせて。…奏が今、日本にこだわっている、その原因の人の名前」
 「―――咲夜」

 その名前を口にしただけで、歌声が、どこかから聴こえた気がした。

 「…あいつといると、楽しいんだ」
 「……」
 「理屈じゃない。誰と一緒にいるより、楽しくて、楽しくて―――そこに恋がなくても、仕事が上手くいかなくても、辛いことがあっても、それだけで生きてられる位に、楽しい」
 「…そう」
 「成田や蕾夏とは離れられても、咲夜とは、絶対離れられない」
 そう言うと、奏は千里を真っ直ぐに見据え、ニッ、と笑った。
 「だからオレは、咲夜が日本にいる限り、日本にいる。もしこっちに帰ることがあるとしたら―――それは、お互いが嫌いになった時か、咲夜と一緒に帰る時だけだと思う。…累とカレンをあの家に住まわせる計画、進めていいよ。オレに遠慮しないで、4人で暮らせよ」
 落ち着いた奏の目を見て、千里は安心したように、大きく息を吐いた。
 「やっと、見つけたのね―――奏が、奏らしく生きられる場所を」


 先のことなんて、何もわからないけれど。
 もしかしたら、日本に戻った途端失恋、なんて展開が待ち受けてる可能性もあるけれど。そうなったら、咲夜という友人を繋ぎ止めるために、死ぬような思いでこの恋を完全に葬り去らねばならないのだけれど。
 どんな辛いことがあろうとも―――咲夜と共に、泣いたり笑ったり……そんな日々が続く限りは、咲夜の傍にいる。
 そこに恋がなくても、満たされない想いが残っても……友情さえ、あればいい。


 咲夜の、隣。
 それが、奏が見つけた、奏が奏らしくいられる、世界にたった1つの場所だった。


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