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― 不審人物 ―

 

 絶対、拓海のせいだ。

 「……サイテー……」
 頭痛いし。吐き気で食欲ないし。これを最低と呼ばずして何と呼ぼう。
 隣から、窓を開ける音がした。窓枠にすがるようにしていた咲夜は、のろのろと左に目を向けた。
 「―――…おはよ」
 「よぉ、早いな……」
 明るい声で挨拶しかけた奏だったが―――咲夜の顔を見た途端、その顔から笑みが消えた。
 「ど、どうした!? その顔!」
 「…そんな、凄い顔してる?」
 「目の下、くま出来てるし、血色悪いし…。二日酔いとも違う顔だな。風邪か?」
 違う違う、と緩慢に首を振った咲夜は、大きなため息をつき、頭を窓枠にもたれさせた。
 「…前、明日美ちゃんがぶっ倒れたのと同じ、あれよ」
 「―――…ああ、」
 あれですか、と、奏の顔色が幾分悪くなる。永遠に共感してはやれない辛さ、というのは、「苦しんでるのに何もしてやれない」感が強くて、風邪や二日酔いより苦手なのだ。
 「夜中から気分悪くて眠れなくなっちゃってさぁ…。起きてみれば頭痛に貧血だし」
 「なんつーか…やっぱ大変だな、女って」
 「ううう…、せっかく綺麗さっぱり忘れ去ってたってのにー…」
 拓海が思い出させたせいだ、と、非科学的な方向に悪態をつく。一方の奏は、咲夜の悪態の意味がよくわからず、リアクションに困っていたのだが―――ふと、あることを思いつき、少し表情を明るくした。
 「なあ」
 「んー…?」
 「着替えたら、ちょっとこっち来ない?」


***


 ―――よっしゃ、完成。
 リップブラシを置き、息をついた奏は、ポン、と咲夜の背中を叩いた。
 どれ、と置き鏡の中を覗き込んだ咲夜は、15分前とは別人の自分の顔をそこに見つけ、目を大きく見開いた。
 「えー、凄い! くまが綺麗に消えてる!」
 鏡の中の咲夜の顔は、幽霊顔を決定づけていた目の下のくまは見事に消え、普段の咲夜より明るい顔色と思えるほどに仕上がっていた。
 「だろー。うちのスタッフの間でも、今までで一番使いやすいって大評判なんだよな、このコンシーラー。黒川さんが開発協力してるから優先的にうちの店に卸されるけど、一般店ではまだ手に入らないってさ」
 「つくづく、凄いねぇ、プロのメイク…。テレビ出てるタレントとか女優って、こういう技術で相当素顔を改造されてんだろうなぁ…。騙されてるファン、ちょっと気の毒」
 鏡をマジマジと見つめ、感心したように呟く咲夜に、奏は思わず苦笑した。テレビなどはまだマシで、これが写真の世界になると、メイクどころか、写真の加工段階で肌色の修正やほくろの消去、なんてこともあったりする。あまりにもビフォー・アフターの差が激しいと、消費者に「詐欺」と言われかねないだろう。
 「どう? ちょっとは気ぃ晴れた?」
 「うん。ありがと」
 奏を見上げた咲夜は、ニッ、と笑ってみせた。
 「頭痛薬効いてきたのもあるけど、なんかこう、元気になった気がしてきた。重たくて仕方なかった体が、かなり軽くなった感じ。病気じゃないけど“病は気から”だね」
 「そっか、良かった」
 実際、奏を見上げる咲夜の目は、いつも以上に力がある。メイクで体調が良くなる筈もないが、体調不良を乗り切る手助けすることはできたのかもしれないな、と思い、奏はちょっと嬉しくなった。
 「あ、お前、時間大丈夫?」
 「…っと、そろそろ行かないとまずいかも」
 腕時計を確認した咲夜は、横に置いていたバッグを掴み、少し慌てた様子で立ち上がった。
 咲夜に少し遅れて見送りに出て来た奏に、咲夜は、靴を履きつつ少々申し訳なさそうな顔をした。
 「ほんと、ごめん。撮影の日だってのに、朝っぱらから手間取らせて」
 「バカ、逆だって。直接現場行く日だからこそ、朝に余裕があるんだから。ごめんとか言うなよ」
 そう言って、コツン、と軽く咲夜の額を小突く。
 それに応えるように微かな笑みを浮かべた咲夜は、空いている手を奏の肩にかけ、背伸びをした。

 まるで映画のワンシーンの如く、唇が触れる。
 え、と奏が思う間もなく、一瞬触れた唇はすぐに離れた。ぽかんとする奏に、咲夜は、ちょっとからかうように、くすっと笑った。
 「じゃ、行ってきます」
 「お、おお」
 数秒間の呆けた状態からハッと我に返り、慌てて返事をする。ますます面白そうに笑った咲夜は、じゃあね、と手を振って出かけて行った。

 「―――…」
 …全く。
 たかがこんなキス1つで、スペシャルハッピーな気分になれてしまう自分は、つくづく、お手軽だと思う。
 変に緩みそうになる顔を、頬を指で押さえて無理矢理キープする。情けないな、と思いながら、奏は玄関の鍵を閉めた。

***

 「はい、OK! 次のカットいきます。テルさん、入って下さい!」
 OKの声に、奏はホッと息をつき、ホリゾントの中央から離れた。
 奏の代わりに、今度は“テル”という愛称で呼ばれている男性モデルが、ライトの中央に進み出る。入れ替わる瞬間、対抗意識剥き出しなテルの視線が奏に突き刺さったが、上機嫌な奏は、その視線をあっさり無視した。

 今日の撮影は、かなり急に入った依頼である。
 男性向けファッション雑誌の記事用撮影で、その号の表紙を飾っている有名モデルのスケジュールがどうにもつかなくなり、急遽、奏に代役オファーが来たのだ。元々の有名モデルが奏と同じハーフだったことと、代役とはいえ格にあまり差があってはいけない、というクライアント側の要望で、テレビには出ていないもののキャリアでは日本の大半のモデルに勝るとも劣らない奏に白羽の矢が立った訳だ。
 国内では3本指に入るメジャーさの男性ファッション誌なだけに、起用されているモデルもメジャーどころが多い。それだけに、現場のモデルの間には、結構緊張した空気が漂っている。
 ただ1人―――奏を除いて。

 「お疲れ様」
 次の衣装を着るためにメイクルームに向かおうとした奏を、壁際で撮影の様子を見守っていた佐倉が呼び止めた。
 「あ、お疲れー。どうだった? 今の撮影」
 「…打ち合わせの時のテンションの低さの割に、本番は随分とノリノリだこと」
 背景が白ホリゾントのみ、小道具類も何もなし、という撮影内容に、打ち合わせ段階での奏は、実に淡々とした仕事振りだった。それに比べて、今日の撮影での愛想の良さは、明らかに変だ。勿論、無言でカメラの前に立ち、打ち合わせ通りにポージングしているだけなのだが―――目が、違う。何度も奏の撮影を見てきた佐倉には、目の輝きの違いがはっきりとわかるのだ。
 「怪しいわねぇ。何かあったの?」
 「んー? 別に?」
 別に、と言いながら、奏の感情に忠実な顔は、思いっきり嬉しそうな顔だ。その顔を見ていたら、なんだか真相を訊くだけ馬鹿馬鹿しいような気がしてきて、佐倉はそれ以上の追及をやめた。
 「…ま、いいわ。それより―――来てるわよ」
 「来てる?」
 何が、と目で問う奏に、佐倉は、スタジオの入り口を挟んで自分が立っているのとは反対側にある壁を指差した。
 その指差す先を、目で追うと―――…。
 「え……えぇ!?」
 「こんにちは」
 目を丸くする奏に向かって、にっこりと営業スマイルを送ってきたのは、今日ここに居る筈のないリカだった。
 「なんで…」
 あっけに取られる奏をよそに、リカは笑顔のまま、奏の方に歩み寄った。
 「この前、一宮さんが熱射病で倒れた日、言ってたじゃない。リカの仕事の打ち合わせの前に、ここの打ち合わせに出た、って。あとはー、梅ちゃんに頼んで、撮影スケジュールを調べてもらうだけー」
 「にしたって、関係者じゃない奴が勝手に撮影現場に入っちゃダメだろっ」
 「ちゃーんとパス貰ったもん。親切よ、ここの編集者さん。撮影直前にアポなしで突撃したのに、いいよいいよ、ってホイホイくれたもの」
 「……」
 ―――ダメだろ、色仕掛けに落ちちゃ…。
 どう考えても、リカの外見に鼻を伸ばして見学パスを渡したとしか思えない。
 振り返ると、やはり妙に張り切った様子で場を仕切っている編集者の姿がそこにあった。やはり、男を舞い上がらせる存在は、いずこも女か―――自分の身も省みて、奏は大きくため息をついた。
 「…んで? なんで見学に?」
 「深い意味なんて、ないけどー? モデル業やってる一宮さんを見てみようかな、と思っただけで」
 「…あっそ」
 マジ何考えてんのかわかんねー、と本気で脱力しそうになった奏だったが。
 「ね、今の撮影は、何考えてカメラの前に立ってたの? この前、カメラマンさんと遊びで撮ってた時と違って、小道具類とか何もなかったけど、ただポージングしてるだけでも面白い?」
 興味津々でそう訊ねるリカを見て、ほんのちょっとだけ、考えを改めた。
 ―――なんだかんだ言って、今日のこれも、モデル業を誇り持ってやっていけるようになりたい、って気持ちから来てんのかな。
 そう考えると、無碍に追い返したり冷たい態度を取る訳にもいかない。気を取り直すように前髪を掻き上げた奏は、真面目に答えた。
 「…そりゃ、小道具あったり、背景ある方が面白いけどな。色々とストーリーを考えられるから。でも、モデルの基本は“商品を魅せること”だからさ。その点では、白背景でも面白いよ」
 「商品を…魅せる?」
 「ファッション雑誌なら、商品は“服”だろ? どの角度から見たら一番綺麗に見えるか、どういうポーズだと魅力的に見せるか―――そういうの研究するの、面白くない?」
 「……」
 「お、この角度いいじゃん、て瞬間が見つかれば、オレは、その服の“もの言わぬ営業マン”になった気でカメラの前に立ってるよ。ほら、このスーツって、ストンと着るよりポケットに手ぇ突っ込んで前身頃半分開いて見せた方がカッコイイだろ? それに意外と後姿がすっきりしててイイんだよな、……ってな感じでさ」
 そう言いながら、実際に、今着ているスーツでポーズを取ってみせる。その様をじっと見ていたリカは、どう? と軽く首を傾げてみせる奏に、感心したようにほーっ、と息をついた。
 「…そ、っかー…、モデルって、自分の体を使って、着ている服や持ってるバッグを、雑誌買うお客さんに売り込む“セールスマン”な訳ね」
 「そういうこと。…ま、今日は他にもモデル出てるし、いろんなタイプがいるから、せっかくならゆっくり見てけば?」
 「うん」
 「一宮君、そろそろ着替えないと」
 話が一段落したと見て、佐倉が小声でたしなめた。頷いた奏は、じゃあな、とリカの肩を軽く叩いた。
 佐倉と目が合ったリカは、それまでの笑顔を消し、幾分硬い表情で僅かに頭を下げた。そのぎこちない会釈に、余裕の大人の笑みで応えた佐倉は、奏を促しつつ、先に立ってメイクルームへと向かった。


 「……どーゆーことなのかしら? 一宮君」
 メイクルームに入ると同時に、佐倉が、異様に冷ややかな声で訊ねた。
 スーツの上着を脱いだ奏は、その質問に、キョトンとした顔で振り返った。
 「は? どーゆーこと、って?」
 「あの子よ。例の、姫川リカでしょ? ただのモデルとメイク担当かと思ったら―――何なの、あの異様な親しさは」
 「親しさ、って……別に、そんなんじゃないって。前、話しただろ? あの子、所属事務所で浮いてるみたいで、モデルとしてのノウハウ訊く相手もいない状態でスランプに陥ってるから、オレが先輩としてアドバイスしてる、って」
 「それは聞いたわよ? でも、だからってわざわざスケジュール調べさせて撮影現場に押しかけてきたりする? 普通」
 「…まあ、オレもあれには驚いたけど…そもそも、いきなり店に来て仕事の依頼したこと自体、かなりぶっ飛んだ行動だからなぁ」
 「第一、なんでキミがあの子の面倒を見なきゃいけない訳? あの子がどうなろうが、あの子の事務所がなんとかすべきでしょ」
 不満げな佐倉の言葉に、奏は、ネクタイを解きつつ、少し考え込んだ。そして、解いたネクタイを椅子の上に放り出すと同時に、佐倉に訊ねた。
 「なあ。佐倉さんから見て、リカってモデルとして、どう?」
 突然、別方向に向いた話に、憤慨したような表情だった佐倉は、少し毒気を抜かれたように呆けた顔をした。が、憮然としたような表情にまた戻り、少々投げやり気味に答えた。
 「…顔は整ってるし、スタイルもいいけどね。…正直、モデル向きじゃないわ」
 「……」
 「表情の作り方といい、喋り方といい、“化ける”気がしないのよ、あの子は。スポットライト浴びて快感を覚えるタイプじゃないってわかる。新鮮なうちは多少使われるけど、2、3年で消える路線だと思う。だから、あたしならスカウトはしないわね」
 一切遠慮のない佐倉の指摘を、奏は黙って聞いていた。が、はぁーっ、と大きくため息をつくと、ポツリと呟いた。
 「―――…やっぱりか」
 意外な言葉に、佐倉は眉をひそめた。
 「やっぱり、って?」
 「うん…実は、この前の撮影から、オレもそう思ってた。ああ、こいつ、性格的にモデルに向いてないな、って」

 そう―――これが、口には出さなかった、奏の本音。
 たとえば、奏にメイクしてもらった自分の顔を見ただけで「元気になった気がする」と言っていた咲夜などは、佐倉が言うところの“化けるタイプ”だと思う。まとう服1つで、内面から自分を装える―――誰もがある程度は持っている力だが、咲夜は比較的その能力が高い。
 けれど、リカは、違う。そのことに、この前の撮影で、奏は気づいてしまった。
 表現力の有無より先に必要なもの―――鏡に映った自分を、現実の“己”を離れて、客観的に見る能力。素人なら別に必要はないし、方向性を誤ると「ナルシスト」にもなりかねない能力だ。でも、モデルをやっていくには、この能力はある程度必要だろう。素の自分とは切り離して、「被写体としての自分」を見ることができなければ、カメラの前でカッコつけるなんて無理だ。
 なのに、リカはその能力が、モデルをやるには圧倒的に不足している。鏡に映った自分は、どこまでも「自分」としか思えない。そして、この能力は、努力で賄える類のものでもない―――性格的なもの、つまり、向き不向きの問題なのだ。

 「向いてなくても、さ。本人が、なんとか充実感を味わいたい、って必死になってるんなら……なんとかしてやりたいだろ、同じ仕事してる人間としては」
 「…つまり、同業者として、頼って来られた以上冷たく突き放せない、ってこと?」
 「まあ、そんなとこ」
 「…ふーん」
 納得したような、けれどまだ釈然としない部分があるような声で相槌を打つと、佐倉は腕組みをし、壁にもたれかかった。
 そこにスタイリストがやってきて、本格的に次の衣装への着替えが始まってしまった。苛立ったように髪を掻き上げた佐倉は、廊下に出ると、バッグからバージニアスリムを取り出し口にくわえた。

 約10分後、着替えを終えた奏がメイクルームから出て来た時には、佐倉はとっくに煙草を吸い終え、微かなメンソールの香りだけが辺りに残っていた。
 「お待たせ。撮影、どうなってる?」
 「まだまだ余裕よ。テル君の撮影、まだ終わりそうにないから。それより一宮君―――…」
 「ちょっと、やめてよっ」
 佐倉が何か言いかけた時、スタジオの入り口辺りから、女性の迷惑そうな声が聞こえた。
 何事か、と2人してそちらに目を向けると、今撮影待機中のもう1人の男性モデルを、リカが迷惑そうに睨んでいるのが見えた。
 「やめてよ、って、別にヘンなことした訳じゃないじゃん。綺麗な髪だね、って褒めただけなのに、何ピリピリしてんの?」
 「褒めるついでに、髪に気安く触ったりしないでっ。リカ、馴れ馴れしい奴って大嫌いなんだからっ」
 「はぁ? 馴れ馴れしいって、この程度でオーバーじゃねぇ? なあ、それよりこの後さ、」
 「おい、リカ!」
 不穏な空気に、奏の声が割って入る。
 ハッとしたように2人の視線がこちらを向く中、奏はつかつかと2人に歩み寄り、リカの方の腕を掴んだ。
 「お前、もう帰れ」
 「えっ…」
 「おい、なんだよ、勝手な真似するなよ」
 奏の一方的な行動に、リカは戸惑った顔をし、男の方は気分を害したような顔をした。ぐい、とリカの腕を引いた奏は、リカの体を出口の方へと押しやりつつ、彼に苦笑いを返した。
 「女口説くのは自由だけど、ここじゃ撮影の邪魔になるだろ? ほら、もうすぐテルの撮影終わるし」
 撮影の邪魔、の一言に、男もぐっ、と言葉に詰まる。バツが悪そうな顔になった男は、面白くなさそうに、少し離れた場所へと移動してしまった。
 はぁ、と息をついた奏は、ちょっとうんざり気味の目でリカを流し見た。一瞬、うろたえたリカだったが、すぐに「リカ悪くないもん」と言わんばかりの表情になり、つん、とそっぽを向いてしまった。
 「…佐倉さん。悪い、こいつ、スタジオの外まで送ってやって」
 確実に、スタジオから出て行くように。
 言外にその意味を込めて奏が言うと、佐倉は肩を竦め、リカに目を向けた。
 「もし見学に来るなら、次はマネージャーさんと一緒にいらっしゃい」
 「……」
 行きましょうか、と佐倉が手を差し出して促すと、リカは渋々といった態度で、それに従った。
 が、しかし。

 「―――…ありがと、助けてくれて」
 歩き出す瞬間、リカは、消え入るほどの小声で、奏にそんな言葉を呟いた。
 その微かな感謝の言葉に、奏は苦笑し―――佐倉は、少し不安げに眉をひそめた。


***


 本日2回目のステージを終え、咲夜たち3人が控え室に戻って間もなく、控え室のドアがノックされた。

 「……」
 3人の間に、形容し難い空気が流れる。
 返事すべきか、否か―――咲夜はヨッシーを見、ヨッシーは一成を見、一成は咲夜を見た。だが、誰一人返事をしないうちに、ドアは勝手に開けられた。
 「どうも、お疲れ様でーす」
 能天気な声と共に現れたのは、新人アルバイト従業員・トールである。予想通りの展開に、3人はため息をつき、一斉に頭を押さえた。
 「今日のステージも良かったっすねー。一成さんのピアノ、タイトでカッコイイっすよ。あ、おれ、これでも一時期バンドやってたんで、音楽にはちょっとうるさいんですよ」
 「……なあ、トール」
 うんざりしている咲夜と一成に代わり、年の功で多少冷静さを残しているヨッシーが、口を開く。
 「お前、何で俺たちのステージ終わるのに合わせて、休憩取るんだ?」
 トールたち従業員には、2時間ごとに10分の休憩が与えられている。30分などのまとまった休憩がない分、小分けに与えられている訳だ。
 休憩は、従業員同士が声をかけあって、手が空きそうな人間から順番に取ることになっているのだが―――何故かトールは、毎回、咲夜たちの2回目のステージが終わると同時に、この休憩を取っている。初日を除き、働き始めてからずっと。つまり、これでもう3度目だ。
 そして、休憩を取ると必ず、トールは控え室にやってくる。ステージを終えてホッと一息ついていると、コンコン、とドアがノックされ、トールがひょっこり顔を出すのだ。そして、3人の演奏を褒め、カウンターに飲みに来ませんか、と3人を誘う。
 いや。
 厳密に言えば―――3人を、ではなかった。
 「えー、だから、言ったじゃないっすか。おれ、みんなのファンになっちゃったんですよ。特に―――咲夜さんの」
 トールの口から出て来た自分の名前に、咲夜の背筋が、ぞくん、と寒くなる。
 「だから、もっとお近づきになりたくて、こうして足しげく控え室詣でもやってるし、親交を深めるために、是非おれのシェイカーさばきを間近で見てもらって、特製カクテルを飲んでもらいたいなー、と」
 頭を押さえていた手を外した咲夜は、ははは、と乾いた笑いをトールに向けた。
 「あ、ありがたいけどさー、今月、お金ピンチでさ。1杯700円のカクテルは、ちとお財布に優しくないんだよね」
 だからパス、という意味で言ったのだが、トールは満面の笑みを全く崩さない。
 「毎回はきついけど、たまになら、おれが自腹でご馳走しちゃうよ?」
 「……」
 「咲夜さんイメージして作ったカクテルなのになー。本人に飲んでもらえないおれって、すんげー不幸ー」
 「…………」
 ―――だ…だから、そういうのが怖いんだってっ。
 まだ入店1週間なのに、咲夜をイメージしてカクテルまで作ってしまう、というのが、なんだか尋常じゃない気がして、非常に怖い。先週の土曜日、この話をトールがニコニコ顔で報告して来た時には、3人揃って思いっきり引いてしまった。
 「ねー、1人じゃ嫌なら、3人揃ってでもいいから、飲みにおいでよ。特製カクテル“マンハッタンのナイチンゲール”」
 「…何だ、そのネーミングは」
 一成の呆れたような言葉は、トールによって綺麗さっぱり無視された。
 「月水金のボーカルのお姉さんなんて、誘ってもいないのに、ライブ終わると必ずカウンターに飲みに来るよ? こっちの人たち、つれないね」
 「…つれないんじゃなく、お前のそのテンションの高さに、ついて行けてないんだ」
 ヨッシーの突っ込みも、トールによって綺麗さっぱり無視された。
 「あ、月水金といえば―――あの人たちって、9月いっぱいで、この店辞めるんだってね」
 「……」
 ついでに思い出した、といった感じで、トールがサラリと口にしたニュースに、3人のうんざり顔が、ぴくり、と反応した。
 3人の視線が、トールに集まる。一様に驚愕の色をしている3人の目を見たトールは、あれ、と意外そうな顔をした。
 「あちゃー…、もしかして、知らなかった?」
 「ちょ、ちょっと、待ってよ…。どこから出て来たの、その話」
 咲夜にとっては、全く初耳の話だ。思わず身を乗り出すようにして訊ねる。
 だが、そんな咲夜の様子を見て、トールの顔に不穏な笑みが浮かんだ。
 「…えぇー…、でも、おれの口から話しちゃうのもなぁ…。店とあっちのバンドの話だし」
 「辞めるって話までしといて、今更“店とバンドの話”もないでしょうがっ」
 「まあ、ねぇ…。でも、教えるんなら、それなりに見返りがないと…」
 「……」
 見返り、という単語に、3人の表情が固まる。
 にっこりと愛想良く笑ったトールは、勝利を確信してか、控え室に踏み入り、咲夜の手をむんず、と掴んだ。
 「という訳で、飲んでいただきましょうか。トール君特製、“マンハッタンのナイチンゲール”を」


 そんな訳で、咲夜はあっさりカウンターへと拉致され、特製カクテルを飲まされる羽目となった。
 ヨッシーと一成も行くと言ってくれたのだが、情報提供者から「だったら教えなーい」と卑怯な手を使われてしまったため、咲夜自ら援軍を断った。
 「―――どう?」
 ちょっと心配そうな目で、トールが感想を待つ。
 “マンハッタンのナイチンゲール”とやらは、綺麗な水色のグラデーションをした、ちょっと甘めのカクテルだった。2口ほど飲んで、咲夜は、作り笑いじゃない微笑をトールに返した。
 「うん、おいしい。女の子向きで、いいんじゃない?」
 「……」
 その感想に、何故かトールは、ちょっと驚いたような顔をした。そして、妙に焦った様子で、照れ隠しのような笑みを浮かべた。
 「や、やー、そっかー。ま、自信はあったんだけどさ」
 「…んで? 岡田さんとこのバンドが、店辞めるって話は?」
 岡田さん、というのは、月水金のライブ枠を受け持っているバンドの、リーダーの名前である。真剣な眼差しで咲夜が問うと、トールは照れ笑いを消し、ちょっとため息をついた。
 「うーん…、まあ、本当だと思うよ? 昨日、あっちのボーカルのお姉さんから直接聞いたから」
 岡田たちのところのボーカルは、確か咲夜より3つ4つ年上の女性だったと思う。ロングヘアの似合う、ちょっと日本人離れした顔立ちの女性だったが、バンド同士の親交自体があまりないので、名前もよく知らない。
 「そっか、本人が喋ったんだ…。でも、店員に話すなんて迂闊だなぁ」
 「ま、そりゃさ。店員だからとかいうより、あのお姉さん、おれに夢中だったから」
 「……」
 へらっ、と笑ってトールが口にしたセリフに、咲夜は、カクテルグラスを口に運びかけた手を止めた。何だそれは、という目で凝視すると、トールは悪びれた様子もなく、平然と答えた。
 「言ったでしょ、おれ、飲食店経験が結構豊富って。前のバイト先はホストクラブでさ、ナンバー1にはなれなかったけど、まあ結構稼いでたのよ。どうも年上の女に可愛がられやすいタイプみたい、おれって」
 「……」
 「同僚が傷害事件なんか起こして、店の評判が一気に下がってさ。挙句に店潰れて、途方に暮れてたところに、この店が従業員募集してんの聞いて、無事新しい仕事にありつけた訳。知ってる? おれ来てから、カウンター席に座る客の大半が、20代後半より上の女の人ばっかりになったらしいよ。あっちのバンドのボーカルさんも、その1人」
 「…なるほどね」
 つまり、彼女がライブ後に足しげくこのカウンターに飲みに来ていたのは、このトールが目当てだった訳だ。そして、酒で口が緩くなっている時に、ついポロリと店を辞める話をしてしまったのだろう。
 それにしても、こいつ目当ての女性客が、そんなに増えていたとは―――確かに顔は整っていて愛嬌もある方だが、咲夜から見ると、ただ変に人懐こくて鬱陶しいだけの男なのだが。
 「それで―――理由、何か言ってた?」
 「んー、具体的には、特には。ただ、“割に合わない”とか“クビになる前に辞めてやる”とか言ってたよ」
 「…クビになる前に…」
 出演を切られるような噂でも出ていたのだろうか。少なくとも咲夜たちは、そういった話を聞いた覚えはないのだが。
 「本当は8月いっぱいで辞める筈だったけど、空いちゃう月水金のライブ枠を埋める新人バンドが、まだ見つからないんだってさ。あの人は、あと1ヶ月もやらなきゃいけないのが不満みたい。“トール君いるなら、まあいいか”とか言って笑ってたけどさ」
 「え…っ、」
 意外な話に、咲夜は目を丸くした。
 “Jonny's Club”は、オーナーのジャズ好きが高じて出来たような店で、上を目指すジャズ・メンたちの腕試しの場として名を知られてきた。月水金と火木土の交代制にしているのも、1組でも多くのミュージシャンに、安定した演奏の場を与えたい、というオーナーの信条から来ている。チャージ料なしなので出演料は激安だが、無名ミュージシャンを、店の看板としてくれるのだ。若手にはありがたい店だ。
 岡田たちが辞めても、出演したがるバンドはいくらでもいる、と咲夜は思ったのだが―――見つかっていない、ということは、現実は違うのだろうか。
 「どーすんだろね、このまま見つからなかったら」
 「……」

 もし、見つからなかったら―――…。
 それは、咲夜たちにとっても、他人事ではなかった。

***

 翌、水曜日。
 咲夜は、自分たちが出演予定ではないこの日に、“Jonny's Club”の控え室を訪れた。
 ヨッシーや一成には、トールから聞いた話は、まだ話していなかった。トールの作り話とは思わないが、なにせ酔った人間が口を滑らせた話だ。内容が少々暗い方向の話だっただけに、やはり、岡田たち本人から話を聞くまでは、迂闊なことを2人には言えないと思ったのだ。

 控え室には、まだリーダーの岡田しかいなかった。
 が、かえって、その方がことは運びやすい。トールに入れ込んでいるらしいボーカルの女性辺りが来ると、情報の出所などで少々ややこしいことになりそうな気がする。他のメンバーが来る前に話をつけてしまった方がいいな、と咲夜は判断した。
 「…お久しぶりです」
 控え室のドアを閉め、咲夜がぺこりとお辞儀をすると、岡田は驚いた様子で折りたたみ椅子から立ち上がった。
 「き、君―――吉澤君たちのとこの、ボーカルの、」
 「如月です」
 岡田と直接会うのは、多分、この“Jonny's Club”で歌い始めた頃に挨拶に来て以来だ。同じベーシストなのに、ヨッシーとは対照的にヒョロッとした体格の岡田は、会わずにいた年月の間に、咲夜の記憶にはない口ひげを生やしていた。
 「どうしたの、突然。何か控え室に忘れ物でも…」
 突然訪ねて来た咲夜の意図を測りかねて困惑する岡田に、咲夜は慌てて首を振った。
 「いえ、そうじゃないんです。実は―――噂を聞いて」
 「……」
 その一言で、岡田には通じたらしい。どことなく気まずそうな顔になった岡田は、ああ、と小さな声を漏らした。
 「…やっぱり、本当に辞めるんですか?」
 「―――うん。もう、そういうことで話はついてる」
 「どうして……」
 「うちは、もうここで演奏し始めて、3年半になるしね。そろそろ後進に機会を譲るべきかな、と」
 機会を―――…。
 その言葉には、咲夜もちょっとドキリとした。咲夜たち3人がここで演奏するようになったのは、咲夜が大学を卒業する直前―――だから、咲夜たちも、既に2年半になる。長居のしすぎ、と言われたら、その通りかもしれない。
 だが、表情を硬くする咲夜を前に、岡田は急に苦笑を浮かべ、バツが悪そうに頭を掻いた。
 「……ってのは、表向きの理由でね」
 「えっ」
 「…出演料の値上げを願い出たら、逆に、値下げを店側から頼まれたんだ」
 「……」
 「僕らの演奏する日より、吉澤君たちの日の方が、客の入りも良くて、リピーターも多いらしい。それでも、出演料をうちより低い金額のままを据え置きにしている―――とてもじゃないが値上げには応じられない、逆に、いい機会だから下げさせてもらえないか、ってね」
 「……あ…、あの…」
 「ここ、経営、かなり苦しいみたいだよ」
 岡田の顔が、真剣なものになった。
 「今の出演料で精一杯なんだよ。僕らは高くなり過ぎたんだ。…僕は、君らと同じ出演料でいいから、このまま続けたいんだけど―――やっぱり、他のメンバーがね。減額されてまでしがみつくなんてプライドがない、って強がっちゃって……それで、辞めることにしたんだ」
 「…そう…だったん、ですか」
 この店の経営が厳しいであろうことは、咲夜も想像してはいた。が、それをこういう形で実感させられると、なんともやりきれない気分になってしまう。咲夜は、落ち込んだように視線を落とした。
 「ただ、ね。次の出演先の当てがないので、困ってるんだ。週1とかならあるけど、毎日や1日おきのライブをやらせてくれる店なんて、滅多にないからね。…こんな、いい店なのに―――僕らの後に入ろうって奴らがいないのが、悔しいよ」
 「…いないんですか」
 「アマチュアで、結構いい線いってる連中を知ってるから、誘ってみたんだけどね。1日おきなんて、メンバーのスケジュールの都合がつかないし、苦労して仕事帰りに集まって、貰える出演料がそれっぽっちじゃやる気がしない―――だってさ」
 「……」
 「…1円でもいい、金貰って、プロとして、1ステージでも多く演奏したい、って気概のある奴の揃ってるバンドなんて、なかなかないんだな。他の仕事で生計を立てて、その生活に慣れてしまえば、ジャズは趣味レベルでいい、って考えに、いつの間にかなっちゃうんだ。…それは、仕方ないことだけど…悔しいよ。同じ仲間として」
 悔しい―――咲夜も、同じ悔しさに、唇を噛んだ。
 岡田同様、咲夜も、こんないい店は滅多にない、と思っている。まだ未知数な自分たちに、週6回ものステージを与えてくれる上に、出演料まで払ってくれるのだ。素人にとっては、これほど素晴らしい話はない筈なのに…。
 「…後釜が決まらなかったら、どうなるんですか? 岡田さんたちが抜けた穴は」
 たまらず、そう訊ねる。岡田はちょっと狼狽した表情をしたが、なんとか笑みを作った。
 「大丈夫。今、学生で誰かいないかと思って探してるんだ。学生なら、社会人よりは時間の自由が利くしね。それでも見つからなかった時は―――完全につむじを曲げちゃってるメンバーを、土下座してでも説き伏せるよ。あいつも、次のステージが決まらない現実に、ちょっと焦り始めてるみたいだしね」
 「…新しい人に期待するより、その人説得する方が確実そうですね」
 「ハハ…、確かに。そうなったらそうなったで、辞めるって啖呵切ったのを撤回した上、出演料減額、っていうカッコ悪いことになっちゃうんだけどね」


 結局岡田は、自分を含め4人いるメンバーのうち「誰」がつむじを曲げてる張本人なのか、最後まで決して言わなかった。
 …多分、バンド内でも、色々と揉めたのだろう。あいつだけ切っちゃえよ、なんて意見も出たかもしれないし、残り2人が岡田と全く同じ意見とも限らない。ずっと一緒にやってきた仲間との間で、こうした意見対立が起きるのは、リーダーとしても辛いに違いない。
 全員で同じ方向を見つめ続けるというのは、何年も一緒にやってきた仲間でも、難しいのかもしれない。
 自分たちもいつか、その絆が壊れる危機に直面するような日が来るのだろうか。…考えたくないが、絶対にあり得ない、とは、到底断言できない。

 「はあぁ―――…」
 「…すんごい、大きなため息」
 はい、とウーロン茶を咲夜の目の前に置きつつ、トールが笑いを含んだ声で指摘する。だが、今の咲夜には、トールを睨み返す元気すらない。
 「んで、わかったの? 酔っ払いのお姉さんが愚痴ってたことが、本当のことかどうか」
 「…わかった。自分たちに都合の悪い部分は省かれてたみたいだけど、概ね事実」
 「ふーん。でも、別に咲夜さんたちに影響はないじゃん。ギャラ出て、火木土とライブやれれば、月水金がどうなってもいいんじゃない?」
 「…そんな訳にはいかないよ」
 「なんで?」
 素で、わかんない、という声で訊いてくるトールに、さすがに苛立ってくる。頬杖をついていた咲夜は、その手を外し、カウンター越しにトールを睨んだ。
 「―――あのさ、トール君」
 「うん」
 「君はアルバイト従業員で、お酒作ったり食事運んだりすることが仕事でしょうが。それこそ、君の仕事と関係ないライブなんて、どうなってもいいんじゃない?」
 キョトン、と、トールの目が丸くなる。直後、トールは可笑しそうに吹き出した。
 「あはははは、さすがだなー、咲夜さんは。やっぱいいわ、この手応え」
 「……」
 ―――皮肉言われて、喜んでるよ。ヘンな奴…。
 こりゃ真性のMだな、と心の中でひとりごちた咲夜は、呆れ顔でウーロン茶のグラスを手に取った。
 「昔から手強い女ってツボなんだよね。おれ、マジで咲夜さん気に入っちゃったよ」
 「はいはい。そりゃ、どうもありがと」
 「だから、おれと付き合おうよ」
 「ふーん、トール君と付き合―――…」

 適当に相槌を打っていた咲夜だったが。
 もの凄く変なことを耳にした気がして、そこで、思考が一旦ストップした。

 ―――今、何っつった? こいつ。
 眉をひそめ、改めて、カウンターの向こうにいるトールの顔を凝視する。
 そこには、真剣味なんて微塵もないトールの笑顔しかなかった。なのに、ニコニコ笑顔のトールは、聞き間違いかと思ったセリフを、もう一度口にした。
 「どう? おれと付き合わない?」
 「…誰が」
 「咲夜さんが」
 「ハハ、面白くないよ、その冗談」
 「ううん、冗談じゃないし」
 「冗談にしかならないし」
 「なんでー? おれ、真剣よ?」
 「彼氏持ちですからー。はい、残念でした」
 冗談にいつまでも付き合うつもりはない。咲夜は、はいおしまい、という口調でピリオドを打った。
 だが、トールは、ニコニコ顔のまま、あっさりと言い放った。
 「それが何? 別にいいじゃん、二股で」
 「―――…」
 さすがに、絶句。
 冗談にしても、たちが悪い。いや、こういうモラルの持ち主なのだろうか。ただでさえ体がだるい時期だというのに、余計ぐったりさせてくれるセリフだ。
 一気にうんざりした気分になった咲夜は、ウーロン茶のグラスをドン、とカウンターに置き、席を立った。
 「…飲む気、失せた。もう帰るわ」
 「えー、なんだよー。返事は? 次のデートの約束もナシ?」
 「ありません。さよーなら」
 抑揚ゼロで返事をした咲夜は、さっさと店の出口へと向かった。そんな咲夜の背中に、トールの最後の一声がぶつけられた。
 「おれ、諦めないからねー」
 「……」

 …出雲といい、こいつといい。
 なんだか、この夏は、空気の読めないヘンな男と、妙に縁があるな。

 今年って、厄年だっけ―――にわかに頭痛を覚え、咲夜は思わず頭を押さえた。


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