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― afterwords ―


 「Infinity World〜Step Beat Final〜」、最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

 ええと。
 ちょっとだけ、放心状態です。

 瑞樹と蕾夏の「再生の物語」を、オフラインで書き始めたのは、2年と少し前―――2003年の初秋だったと思います。
 それ以来、他の連載も挟みながらも、ほぼこの2年あまりの月日を彼らの「再生」のために費やしてきたのですから―――まあ、少し位放心しても仕方ないですよね(そういうことにしといて下さい)。
 放心ついでに、筆者の戯言などを書き綴らせていただきますので、暫しお付き合い下さい。

 連載中、いくつか似たようなご感想をいただいたので、この際はっきり宣言させていただきます。
 この物語は、勿論、「フィクション」です。間違っても、結城の実体験のお話ではございません。
 …いえ、ほんとに、いらっしゃったんですよ。もしかして「Step Beat」は結城さんの実体験を基にしたお話ですか、っていう質問が、チラホラ。
 それだけリアルだったのだろう、と考えて喜んでおりますが、改めて確認しておきますと、結城は性的暴行を受けた経験も、幼児虐待を受けた経験もないです。(ついでに相方もないですから)
 ないのに、こんなの書いていいのかな、と思うと…色々と考え込んでしまう部分があります。
 特に、この2年あまりの間に、実際に親の暴力に晒された方、性犯罪被害に遭われたご本人、またそうした暴力の果てに自ら命を絶ってしまった恋人がいる方、等々から感想をいただくことがしばしばあり、そのたびに、そういう人達はこの物語を読んで何を感じるんだろう、救われるのならいいけれど、傷を蒸し返すだけだったらどうしよう、と毎回胸が痛みました。
 ただ、そうした方々が毎回、「瑞樹や蕾夏の気持ちがもの凄くよく分かる」と言ってくださるので、ああ、たとえ自身には実体験はないにしろ、自分はまがい物を書いている訳じゃないんだな、と実感でき、その都度ホッと胸を撫で下ろしていました。

 少々個人的なことですので(よって「私」と書きます)、以下、ちょっと文字色薄めで。

 「Step Beat」のあとがきにも書きましたが、私は中1の時、それまで築いてきたアイデンティティが崩壊するような体験をしました。
 どこか身体が傷ついた訳ではありません。相手は同性の女性たちですから、性的な危機にも陥っていません。詳しく書くのも馬鹿馬鹿しいのであえて一言で言うなら、私が晒されたのは「数の暴力」でした。訳もわからないまま、20数名の輪の中に投げ込まれ、訳もわからないまま傷つけられ、何故謝るのかも分からないまま必死に許しを請い、それを無視してたった1人置き去りにされました。
 そのことは、私の心を崩壊寸前まで追い込みました。それでも、ごめんねと言ってきた大勢の中の弱い数名に「もういいよ」と答え、その後ぎこちないながらも親しい態度をとってきた残り全員にも笑顔を返し、あんなことは何でもなかったのだ、という顔をし続けました。弱さを見せれば自分が負けると、そう思ったのです。
 けれど、1度だけ、その「平然とした自分」を演じ切れなかった時があります。
 傷つけた人々の中の、いわば一番強い立場にいた少女が、3学期の終わり頃、ある教師にその事件の話を持ち出してチクチク説教されたことを愚痴って、最後に私にこう言ったのです。
 「もう随分前のことだし、今は仲良くやってるんだから、いいじゃんねぇ。結城さんだって忘れてるのに、先生しつこいよ」
  多分、本気の殺意を感じたのは、後にも先にも、その時だけだったと思います。
 それは、もっと分かりやすい暴力に晒された人から見たら、小さな小さな痛みかもしれません。
 けれど、痛みを抱え、それを隠して生き続けた結果、私は「強い自分」を演じることしかできなくなっていました。演じながら、いざ、あの時感じた世界中から乖離してしまったような孤独感と、何ひとつ抵抗ができなかった無力感を思い出すようなシーンに出会うたび、誰もいない場所へ駆け込んで、震えや呼吸困難に耐えるしかありませんでした。
  ある人と出会い、大声を上げて泣きながら、抱えてきた痛みを全て吐き出すまでは。そして、その人の抱える過去も「そういう過去を持った人だからこそ、私を受け入れてくれたのかもしれない」と考えて受け入れ、「こういう私だから、今のこの人を受け入れられるのかもしれない」と感じて、今の自分を少しは愛しいと感じられるまでは。

 いつだったか、ある読者さんから、「結城さんの痛みの表現はとてもリアルだ」という感想をいただきました。最近、その意味を、時々考えます。
 結城が小説を書き始めたのは、実はそのアイデンティティ崩壊事件の直後からだったんです。でも、その頃、抱えた痛みを表現する場は、小説ではありませんでした。もう1つ、音楽という大きな表現の場が、結城にはあったので、部屋中の灯りを消して、暗闇でひさすら鍵盤を叩くという行為が感情表現の場で、小説は逆に「夢への逃避場所」でした。SFがその主なジャンルで、現代小説など絶対に書けませんでした。
 なのに今、現代小説を書いている。うーん、何故なんだろう。
 と首を傾げた時―――ああそうか、今私は、書く事でリハビリしてるのか、と気づきました。
 その方へのレスでも書いたのですが、「痛み」って、突き詰めると、原因は様々でも本質は同じだと思います。「怒り」と「恐怖」と「後悔」―――瑞樹の痛みも、蕾夏の痛みも、そして規模は小さくても結城自身の痛みも、突き詰めていくとその3つなのだろう、と。
 瑞樹や蕾夏に、痛みを訴えさせ、それを克服させることで、自分も解放されたがってたんだな、と、全てを書き終わった今では思っています。
 2年をかけて、しかも、見ず知らずの人を巻き込んでまでのリハビリ……うーん、いいんでしょうかね。でも結果、結城は、2年前よりちょっとは人間丸くなってる気がします。まだ女性の集団見ると動悸息切れ眩暈、って感じですが(救心が要るなぁ)、それは、瑞樹や蕾夏がトラウマを完全には消せないのと同じで、長年付き合っていくしかないのでしょう。

 さて、個人的お話はさておいて。
 「Step Beat」シリーズ、最初は「Step Beat」1本で終わらせちゃおうかな、と思っていました。
 実際、1作目終わった段階と現在、瑞樹と蕾夏にどれほどの変化があるんだ、と言われると、表面的にはそんなに変わってないように思う人もいると思うんです(職業は随分変わったけど)。なんか、同じ問題でいつまでもぐじぐじしてるなー、で、また立ち直って前向きに生きてるなー、と。
 でも、1作目では、瑞樹も蕾夏も、呪縛の根源と向き合うことなく終わっています。向き合うことないよ、とも取れる割り切り方で前に進んでいました。それでもいいのかもしれないけど、結城としては、なんらかの形で倖や佐野と向き合い、彼らの弱さを知った上で「もういいや」と笑顔で言えるようになって欲しかったんです。
 で、それを書こうと思ったら……嗚呼、何故、全4部作に(笑)
 途中、あまりに痛々しいシーンがあったりして「こりゃ読者が減るかな」と冷や汗かいたりもしましたが、まあ…やはり、全て書ききって、良かったと思っています。

 瑞樹と蕾夏の「再生のものがたり」は、これにて、完結。
 といっても、瑞樹や蕾夏と永遠にサヨナラ、ではないです。既に予告している「Fake!」(一宮 奏を主人公とした長編・2006年連載予定)にも、2人は登場しますし。
 ただ、「再生のものがたり」としては、これでおしまい、ということです。だって、解放という名のゴールテープを、2人とも無事切れましたからね。この先の2人の様子については、「Fake!」や他のお話で垣間見ていただければ。
 あ、勿論、ふられても恋を失わない奏君を、今後も応援いただく方が、今の筆者の心境としては「是非よろしく」という感じですけれど(笑)

※2006/01追記※
執筆当時、act20「Step Beat 〜あの日、足音を聞いた〜」の一部でありながら、「視点が瑞樹と蕾夏からぶれて、テンポが悪くなってしまう」との理由から本編から省略した部分を、後日、Extra Storyという形で発表しました。
加害者のその後や関係者のその後を考える時、非常に重要な追加ストーリーと思われますので、お読みいただければ幸いです。
(→Extra Story 「Liberation 〜もう1つの解放〜」

 なんだか、あとがきなんだか、自分の過去の暴露話なんだか分からなくなっちゃいましたが(す、すみません…。ただ、何故「Step Beat」を書いたのか、という原点を、最後の最後にちゃんと書こう、と決めていたので)。
 最後に、一言。
 この永い永い2人の物語に、最後までお付き合いくださって、ありがとうございました。

2005.12.15 結城とも


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