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出社した和臣は、自分の机の上におかれた1枚の封筒を見て、首を傾げた。
―――何だろう、これ。
鞄を椅子の上に置き、とにかく封筒を開けてみる。
中に入っていたのは、クリスマス・イブに行われる、和臣が好きなバンドのクリスマス・ライブのチケットだった。
一瞬、顔がパッと笑顔になりかけたが、すぐに「いや、待て」ともう一人の和臣がお調子者な和臣の首根っこを掴んだ。
和臣が好きなバンドのライブチケットが、和臣の机の上に置いてある。この事実を、冷静に分析してみる。
和臣の机の上に置かれていた、ということは、和臣のために置いてあった、と考えるのが妥当だが、本当にそうだろうか? 偶然誰かがここに置き忘れただけ、という可能性はないだろうか? そういう可能性もあるかもしれないが、よりによって和臣が好きなバンドだなんて、あまりに出来過ぎている気がする。
やっぱりこれは、オレに渡すつもりでここに置いてあったんだろうな、と、和臣は結論づけた。
しかし―――和臣は知っていた。このバンドのクリスマス・ライブは、ペア・チケットしか販売していない、という事を。
クリスマス・イブと言えば、今や恋人同士のスペシャルイベントだ。イエス・キリストの存在も忘れて浮かれまくる恋人たちのために、最近はカップル向けのライブも企画されてしまったりする。このバンドも、そんな潮流に乗せられてしまったのだ。こんな軽いバンドじゃなかったのに、と、雑誌を見て憤慨した記憶があるから、間違いない。
ペア・チケットしか売ってない。なのに、封筒の中のチケットは、1枚。
もう1枚はどこへ行ったのか―――当然、これをここに置いた張本人が持っているに違いない。
…じゃあ、誰が?
まるで、片方だけのガラスの靴を手にした王子様のように、和臣はチケット片手に呆然とした。
***
「私じゃないわよ? 私、ロックなんて聴かないし…それに私、24日は用事があるって言ったじゃない?」
和臣にチケットを見せられた奈々美は、キョトン、とした顔でそう答えた。
「…だよね」
思わず肩を落とす。奈々美な訳がない、とは思っていたが、改めて言われると、かなりへこむ。
傍目にもそのがっかり度が明らかな和臣を見て、奈々美は苦笑した。
「やだ、神崎君、そんなに落ち込まないでよ。好きなバンドのチケットをタダで貰えたんだから、ラッキー位に思わなくちゃ」
―――その事で、ここまでへこんでる訳じゃないんだけどなぁ…。
少し恨めしそうな目で、奈々美を見てしまう。
今から1週間ほど前、和臣は去年同様、奈々美をクリスマス・ディナーに誘った。去年は冗談としか受け取って貰えなかったが、今年は少しは可能性があるかな、と思っていた。しかし―――結果は、「ごめんねぇ、24日は、もう予定入ってるの」だった。
どれだけポジティブシンキングな和臣でも、これでへこまない訳がない。「24日は用事があるって言ったじゃない?」という言葉に、その時受けたショックが甦ってきて、余計へこんでしまったのだ。
「ねぇ。そのチケット、別に1枚でも入場はできるんでしょ? 1人でもいいから行っちゃえば?」
「でもさぁ…なんか消化不良でしょ、このままじゃ。絶対社内の人間な訳だし」
「そうねぇ…」
さすがに奈々美も、ちょっと神妙な顔つきになる。それから、ポン、と手を叩いた。
「成田君じゃない? 彼なら神崎君の好みも知ってるし、ロックも聴きそう」
奈々美の助言に従い、和臣は次に瑞樹のもとに向かった。以前、蕾夏の電話番号を置いていった前科があるので、大いに怪しい。
「俺な訳ないだろ」
仕事を中断させられたせいか、瑞樹は迷惑そうにそう言い、和臣を軽く睨んだ。
「ほんとーに? 12月24日のチケットだよ。絶対違う?」
「嘘ついてどうするよ」
「記憶違いって事はないよな?」
「24日は予定あるから、間違いない」
それを聞いて、和臣も納得し、立ち去ろうとした。が、一部、聞き捨てならない言葉があって、慌てて瑞樹の顔を覗き込んだ。
「…予定って、何?」
「……」
思いっきり睨まれ、慌てて和臣は「わかった、サンキュ」と言って、システム部を後にした。
―――予定がある、かぁ…。藤井さん、かな、やっぱり。
和臣にとって、蕾夏は今も「憧れの女性」だ。そんな蕾夏の相手は、結局誰であっても面白くないのだが、瑞樹だと思うと余計面白くない。蕾夏をめぐる和臣の心中は、結構複雑である。
その後も、とりあえず思いつく人物全員にあたったが、全員答えはNOだった。
ライブは、もう数日後に迫っている。和臣は、途方に暮れた。
***
出社した佳那子は、自分の机の上におかれた1枚の封筒を見て、首を傾げた。
中身は、とあるジャズ・バーのクリスマス・ライブのチケットだった。日付は、12月24日。
「え、佐々木にまでそんな怪現象が起きたのか?」
佳那子から相談された久保田は、目を丸くした。
「やっぱり、久保田じゃないんだ…」
「クリスマスは混んでて疲れるから、って毎年24日は仕事の日にしてるだろ。俺も佐々木も」
「そうよねぇ。…おとといだっけ? 神崎が会社中の人間にチケット知りませんかって訊いて回ってたのって」
そう言って、佳那子は眉をひそめた。
「そ。結局誰も名乗りを上げなかったから、あいつ、確かめるためにも行くって言ってた」
「え…そうなの? クリスマス・イブなのに―――今年はナナへのアタック、諦めたのかしら」
「今年は、なんか用事があるって言われたらしい。しょげ返ってたから、あのチケットはいいプレゼントになったのかもしれないな」
奈々美の用事とは何だろう、と、佳那子は首を傾げた。
「まぁ、神崎はいいとして―――私、どうしようかしら。席指定のチケットだし、捨て置くには勿体無いわねぇ」
「確かに勿体無いなぁ…俺、チケット売り出した直後位に、出演アーティストの豪華さに目が眩んで思わず買いそうになったんだけど、あの段階で既に売切れだったぞ。結構人気高いんじゃないか? このライブ」
「やっぱり、神崎みたいに1人1人確認してくしかないかしら」
「そんなの大変だろ。時間もないし。社内回覧でまわして、反応がなければ佐々木が行けばいいんじゃない?」
楽天家の久保田らしい発想だ。誰のものかわからないと気持ち悪い、とは思うが、他に妙案もないので、佳那子はその案に賛同した。
もしかしたら贈り主が判明するかも、と、一縷の望みを託して社内回覧を回したが、結局、謎のサンタクロースの正体は判明しなかった。
佳那子のチケットも、和臣のチケットも、贈り主不明のまま当日を迎えるに至ったのである。
***
―――ロックのライブに来るなんて、大学の時以来だよなー…。
和臣は、既に熱気を帯び始めている会場を見渡し、久々の高揚感を味わっていた。
元々、この手のライブに足しげく通うタイプではないが、大学時代は、ロック好きの友人に付き合う形でしばしばライブに行っていた。そういえばあいつ、今は外務省の一員だよなあ、と、当時のライブ仲間を思い出し、ああいうのが官僚になったりするのか、と妙な気分になった。
社会人になってからは、すっかりこの手の遊びからは遠ざかった。日頃の激務で縦ノリするだけの気力がなくなったのも理由だが、チケットが高くて買う気になれない、というのも本音だ。チケットを買う位なら結婚資金を貯めるんだ、というのが和臣の新ポリシーである。
だって、結婚したい相手が、毎日目の前にいるんだもんね。
和臣はそう考え、一人口元をほころばせる。が―――退社時、既に奈々美がいなかったことを思い出し、また表情を暗くした。
―――奈々美さん、クリスマス・イブに用事だなんて、一体どんな用事なんだろう。
考えれば考えるほど、嫌な想像ばかりしてしまう。
和臣は小さくため息をつき、チケットに書かれている番号の席を探す事に専念した。
「えーと…Fの24、Fの24…と」
前から24列数え、Fの席を探しあてた和臣は、そろそろ開演も近いので、急いでその席に向かった。
「すみませーん、前通りまーす」
隣のE席の人に謝りつつ、体を滑り込ませる。と、E席の人が、何故かクスリと笑った。
「遅かったのね」
―――え???
聞き覚えのある声に、慌ててE席の人の顔を確認した和臣は、信じられないと言うように目を丸くした。
「な―――奈々美さん!?」
「うふふふー、ごめんね、黙ってて」
そう、和臣の隣の席―――つまり、ペア・チケットの片割れの席に、奈々美が座っていたのだ。全く悪びれる風もなく、にこにこと和臣のびっくり顔を見上げている。
「いや、でも、ええと…なんで!? 何がどうなってるの!?」
「クリスマス・サプライズ!」
「さぷらいず!?」
「企画・立案は、藤井さんよ。実はね、11月にちょっと藤井さんに電話する機会があって、その時、神崎君驚かせるようなクリスマスをやりたいけど、何かいい案ない? ってお願いしたの。神崎君が気味悪がって来なかったらどうしようかと思ったけど…来てくれて良かった」
そう言って奈々美はにっこり笑った。
和臣は、唖然とするしかない。
奈々美さんの用事って何だろう、とずっと気にして落ち込んでた12月の数日間がバカみたいに思えてくる。その用事が、まさか自分を驚かすための計画だなんて―――驚かせなくていいから、自分が誘った時に教えて欲しかった、と、文句の一つも言いたい気分になってしまった。
だが、ふとある事に気づいて、和臣は慌てて席に座り、じっと奈々美の顔を凝視した。
「あの、これって―――」
「なぁに?」
「…一応、オレが奈々美さんに誘われた、ってことになるのかなぁ?」
和臣が小声でそう訊ねると、奈々美はちょっと顔をあからめ、ぷいっと顔を背けた。
「なんか、誘った、なんて言うと、人聞き悪くてイヤ」
「でも、そうだよね?」
「…そう、かな、うん」
照れ隠しのように、少しむくれた顔をしてそっぽを向いていた奈々美は、バツが悪そうに和臣の方をチラリと見た。が、次の瞬間、びっくりしたように目を丸くした。
「かっ、神崎君!? どうしたの!」
和臣は、放心状態という表情のまま、ぽろぽろと涙をこぼしていたのだ。驚かせるつもりではあったが、泣かせる羽目になるとは思わなかった奈々美は、大慌てでバッグからハンカチを引っ張り出した。
「な、泣かないでよ。どうして!?」
「―――オレ…嬉しい…」
「え?」
「嬉しすぎて…涙が止まんない…どうしよう」
いきなり客電が落ち、舞台に置かれた巨大スピーカーから、派手なギターの音が流れてきた。周囲から怒涛のような歓声が沸き起こる。
いよいよライブがスタートしたのだが―――。
「ね、ねえ…泣き止んでよぉ、神崎君」
全然うれし涙の止まらない和臣を必死に奈々美が宥めている間に、1曲目が終わってしまった。
***
「何、隼雄、帰んの?」
和臣がライブ会場に向かった少し後、コートを着込む久保田の姿を見て、ちょうどコーヒーを飲みに立ち上がっていた瑞樹が声をかけた。
「ああ。ちょうど仕事も終わったし」
「だったら、佐々木さん追っかけてくんない?」
「佐々木? あいつは、例の謎のチケットのライブに行ってる筈だぞ?」
事実、パーティションの向こうに見えるシステム部に、佳那子の姿は既に無い。何言ってるんだ、という顔で久保田がそう言うと、瑞樹は肩を竦めた。
「行ってるだろうけど、多分中に入れなくて困ってるんじゃねぇの」
「え?」
「机の上に、封筒置きっぱなしになってる」
「は!?」
慌てて佳那子の席を覗き込むと、確かに、相談された時彼女が持っていたのと同じ封筒が、机の端っこに丁寧に置かれていた。
「あのバカ…!」
「佐々木さんの携帯、もう繋がんねーし、俺は仕事残ってるから行かれねーしで困ってたんだ」
時計を見ると、既に7時を大幅に回っている。が、急げばギリギリ、8時の開演に間に合うかもしれない。
「わかった。俺、ちょっと追っかけてくる」
久保田は封筒をコートの内ポケットに入れると、急いで会社を後にした。
「お疲れー」
久保田を見送りながら、瑞樹は心の中で、一言呟いた。
―――相変わらず、騙されやすいヤツ…。
***
猛ダッシュが功を奏して、久保田がジャズ・バーに着いた時、時計はギリギリ8時少し前を指していた。
だが、チケットを忘れて困っている筈の佳那子は、店の周囲には見当たらなかった。
もしかしてライブを諦めたか、会社に取りに戻ったかしたのだろうか、と不思議に思いつつも、久保田はゼーゼー言いながら、チケット係の女性に声をかけた。
「あの…ちょっと、人を探してるんですが」
「はい?」
「チケットを忘れて、入場できなくて困ってる女性、いませんでしたか?」
チケット係は、記憶を辿るように宙を暫し見つめた後、にこりと営業スマイルを返した。
「いえ、そういう方はいらっしゃいませんよ?」
「え? えー、あの―――年齢は20代半ばから後半、背が高くて、明るい茶色の髪をしてて、かなりビシッとした感じの美人なんですけど」
「ああ! その方ならいました。もう中に入られてますよ」
「は?」
佳那子は来ているらしい。が、既に中に入っているという。
―――どういうことだ?
「もう始まっちゃいますから、お早くご入場くださいね」
久保田が、チケットが入ってるらしき封筒を握り締めているのに気づいたらしく、係員がそう告げる。とにかく、佳那子が中にいるというのなら、事情も彼女が知っているかもしれない。観念して、久保田はチケットを係員に渡した。
店内は薄暗く、小さな丸テーブルがいくつも置かれていて、大抵はカップルがそれらの席を埋めていた。久保田もここに来るのは初めてだが、こんな光景はクリスマス・イブだからだよな、と察しはつく。ぐるりと辺りを見回すと、たった1人でテーブルを独占している佳那子の姿が目に飛び込んできた。
「佐々木っ!」
久保田が声をかけると、佳那子は驚いたように久保田の方を見た。
「え…ええ!? 久保田!? どうしたのよ!」
「どうしたはこっちのセリフだよ」
言いつつ、久保田は幾多のテーブルを避けながら、佳那子の席に歩み寄った。チケットの半券と見比べてみたところ、手元のチケットは、佳那子の真向かいに置かれた椅子の分らしい。
「お前の机の上に、この封筒が置きっぱなしになってたんで、こりゃ忘れたなと思って追いかけたんだよ」
久保田が封筒とチケットをテーブルの上に放り出すと、佳那子は訝しげに眉をひそめた。
「何言ってるの。忘れてたらここに座ってる筈がないでしょ? 私はちゃんと持って来たわよ」
「じゃあ何だよこれは?」
「知る訳ないじゃない?」
その時、久保田がある可能性に気づいた。
―――まさか…。
慌てて久保田は、放り出した封筒をもう一度手にとり、中身を改めてみた。もう何も入ってはいなかったが、封筒の口の折り返し部分に、極々小さい字で何か書いてあるのがわかった。
「や…やられた…」
「え? …どういうこと?」
久保田は頭を押さえ、佳那子に封筒を渡した。そして、問題の個所を指で示す。
『日頃のお説教に感謝して。2人で、カップルだらけのクリスマスを満喫して下さい。 HAL / rai』
「…なに、これ。誰が書いたの?」
「…2人して嵌められたんだよ、あいつらに」
「は!?」
―――あんの、悪魔コンビ! こんなカップルだらけのイベントに、俺たちを放り込みやがって…!
「ねぇ、久保田、どういう事よ? 説明してよ」
「……まあ、入場しちまったし…勿体無いから、観念して聴いてくか」
今更、ここまできて、1曲も聴かずに帰る訳にもいかない。あいつら覚えてろよ、と心の中で呟きつつ、久保田は不貞腐れたように椅子にズルズルと沈みこんだ。
***
「いい所だねー、ここ」
「いいんだけど…風強いなぁ、今日」
会社の屋上で、かなりの風を頬に感じながら、瑞樹は酒屋で買ってきたスパークリングワインをあけた。景気の良い音がして、泡がボトルの口から零れる。
「あああ、もったいない」
それを見て悲しげに眉を寄せる蕾夏に、瑞樹が呆れたように言う。
「お前はどうせ飲んでも一口だろ」
「うーん、気分がいいから、もうちょい飲むかも」
蕾夏は、どこから持ってきたのかシャンパングラスを取り出し、1つを瑞樹に手渡す。お互いのグラスにスパークリングワインを注ぎ、2人同時にニッ、と笑った。
「では、任務完了ということで」
「乾杯!」
グラスを軽くぶつけると、澄んだ音が響いた。
屋上照明でぼんやり照らされた中、飛ばされないようブロックで固定したレジャーシートの上に、瑞樹と蕾夏は座っていた。
クリスマスのウォーターフロントの夜景をバックにした、最高に贅沢なパーティー。ただし、最高に寒いパーティーでもある。一番小さいホールケーキを買ってはきたが、カットする手が思わず震える。
「もうちょい着込めばよかったかなぁ」
蕾夏は、妙に歪んでしまったケーキを紙皿に載せ、瑞樹に差し出した。瑞樹はそれを流し見、にやりと笑った。
「食わして」
「…1カット丸ごと突っ込んでいい?」
「―――新しい切りかえしを覚えたな。遠慮しとく」
「ったくもー…」
ぶつぶつ言いながら、2人して同時にケーキを一口頬張る。
「うげ…甘い」
「おいしい! ―――っていうか瑞樹、ケーキが甘いのは当たり前じゃん」
「ここまで甘いとは思わなかった」
瑞樹は顔を顰め、紙皿を早々に地面に置いた。一口でも食べて少し軽くなったせいか、ケーキごと風に飛ばされそうに見える。
「今頃、佳那子さんと久保田さん、仲良くジャズ聴いてるだろうなぁ」
このアイディアの発案者である蕾夏が、またケーキを口に運び、感慨深げに言う。
そもそも、奈々美に和臣を驚かせるプレゼントの相談を受けたのがきっかけだった。蕾夏がその話を瑞樹にし、ならば久保田たちも驚かせてみないか、という話になったことから、今回のサプライズ・プレゼントになったのだ。
「江ノ島の宿泊費出してもらった礼にしては、贅沢なプレゼントだったけど。俺らで行けばよかったかな」
「ううん、私はこっちの方が断然いい」
シャンパンのボトルを手に取りつつ、蕾夏がきっぱりと言う。
「寒風吹きすさぶ屋上で、夜景を独り占めしたクリスマスなんて、世界中で私たち以外誰もやってないもん、きっと」
「ははは、確かにな」
自分たちしかやらない、というのは、ありきたりなものを嫌う人間にはたまらなく魅力的な言葉だ。瑞樹も機嫌良くシャンパングラスを口に運ぶ。
「あっ、後で写真撮ろうね。ケーキとかシャンパンとかも一緒に」
「最後まで飛ばされなかったらな」
風で飛ばされそうになる紙皿を押えながらもはしゃぐ蕾夏に、瑞樹は苦笑を返した。
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