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― ending ―

 

 ―――成田さんへ

 お元気ですか?
 どうもメールは苦手なんだけど、奏が「今時封書オンリーなんて、時代に取り残されてるぞ」と脅すので、しぶしぶメールしています。なんだか、手書きじゃないと、気分が乗らないんで、困ってます。

 成田さんと藤井さんが使ってた部屋は、現在も空き部屋のままです。
 もう1ヶ月も経つし、母さん達はそろそろ新しい人を入れようと言ってるんだけど、奏が反対してるので、暫くこのままかもしれません。
 そんなに別の人が入るのが嫌なら、奏があの部屋に住めばいいのに…。でも、それは嫌なんだって。奏の頭の中って、結構複雑なのかも。
 奏はこの前、やっと1件仕事を取れたみたいです。ジーンズのポスターの仕事だって。今までと全然違う路線だけど、奏は喜んでます。この方が自分らしい、って。
 でも、やっぱり前のイメージがあまりにも浸透してるみたいで、なかなか望むようなオファーは来ないようです。暇そうにしてるのが見てられないって言って、郁が時々、アシスタント代わりに奏を使ってます。
 現場で何度も見ているせいか、奏も結構、覚えがいいそうです。モデル生命もそんなに長くはないから、将来はこっちの道に進めばいいのに、なんて郁は言ってるけど…奏はどう思ってるんだろう?

 …なんだか、奏のことばっかり書いてるな。
 僕は、全然変わらないので、何も書くことがないから、仕方ないけど。
 そうそう、藤井さんが、この前送ってきた手紙で訊いてた話。
 進展、ありません。
 期待しないで下さい。
 とりあえず、僕も、カレンも、元気です。

 それと、例の小説、少々設定を変えて、今書きなおしている最中です。
 またラブレターの部分があるんだけど、カレンに見せるのはさすがに恥ずかしいので、藤井さんにチェックをお願いしたいんだけど、いいですか?
 念のため、テキストファイルを添付しておきます。暇な時に、藤井さんに見せて下さい。
 ついでに、成田さんも読んで、矛盾点など指摘してくれると助かります。


 ―――読みたくねーって。
 添付されたテキストファイルを一瞥した瑞樹は、シェークスピアばりの前回のラブレターを思い出し、眉を顰めた。
 「…っと、やばい」
 仕事に出る直前に入ったメールで、すっかり出かけるのが遅くなってしまった。
 瑞樹は、慌ててカメラバッグを肩に担ぐと、大急ぎで部屋を飛び出した。


***


 「うちじゃ初仕事だってのに、また厄介な人の撮影になっちゃって、済まないねぇ。なにせ撮り難い人でね。“私の顔は左斜め45度からしか撮っちゃダメよ”なんて言ったりするんだから」
 「…最高に嫌いなタイプかも…」
 「まあ…あとは、インタビュアーがどれだけ場を和ませられるかだろうね。期待してるよ。時田さんから話は聞いてるから」

 “小会議室”と書かれたドアの前で立ち止まった編集担当者は、腕時計を確認した。約束の時刻ギリギリといったところだ。
 「済みません、お待たせしました」
 ドアを開け放ち、編集者がそう声をかける。途端、小会議室の中にいた全員の目が、編集者と瑞樹に注がれた。
 「カメラマンさんも揃いました。さ…、今日のインタビューの打ち合わせ、始めましょうか」
 「はい」
 座ってくつろいでいた数名が、がたがたと席を立ち、瑞樹の方に向き直った。それを待って、瑞樹はカメラバッグを机に置き、軽く会釈した。

 「カメラ担当の、成田です。よろしくお願いします」

 その挨拶に、一番手前に座っていた女性が、深々と頭を下げた。

 「取材担当の、藤井です―――よろしくお願いします」

 顔を上げた2人の視線がぶつかる。
 瑞樹と蕾夏は、周囲の人間には気づかれないよう、密かに笑みを交わした。

 


 いつか、同じ道を歩くために。
 今は、それぞれの道を、力の限り進んでゆく―――時々、こんな風に、その足音を重ねながら。

 

――― "Step Beat × Risky" / END ―――  
2004.8.4  


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